「松野くんって、女の子のどんな格好が好き?」

緊張して唇を舐める。彼色に染まりたいなんて乙女思考はあまりないけど、彼の好みを把握して、気が向いたら近付いてもいいかな、なんて思うわたしは重たいだろうか。声が震えなかっただけマシだと考えながら視線を泳がせると、松野くんはパアッと満面の笑みをわたしへ向ける。

「全裸」
「えっ」
「何? 見せてくれんの? ラッキー!」

ツイてるなー、と鼻の下に触れながら笑顔を見せる松野くんに、ただただ言葉を失った。そういえば、そうなのだ。彼はこういう人であって、決して小花柄のワンピースなどと答えるような人間ではない。分かっていたけど、ただ忘れていたのだ。

「ま、松野くん、服装のことを聞いてるんだよ」
「服なんて何着てても同じだって。どうせ興味があるのは中身なんだから」
「中身って…」
「脱いでる名前ちゃんが、一番かわいいんだよ」

松野くんが目を細め、思い切り口角を上げて歯を見せる、この笑顔が好きだ。好きだけど、流されてはいけない。毎度松野くんのペースに乗せられるものか。

「そういうことを聞きたいんじゃないよ、ちゃんと布で体を隠した状態の場合を聞いてるわけであって…、」

我ながら説明が下手だ。松野くんはふむふむと頷いてしばらく考える素振りを見せてくれたけど、決して小花柄のワンピースなどとは言う顔ではない。

「わかった! 前開きのキャミソール着てる名前ちゃん!」
「はあ…」
「そのリボンを解いて、はやくおちんぽちょうだいってねだってきたら、もうさいこー!」

分かっていた。何を着ても松野くんは興味がないことも分かった。これで安心してスパンコールでもダメージジーンズでも着られるはずだ。いやだ。

「もういい…」

ふい、と顔を逸らすと、松野くんがわたしの肩へ触れる。そちらを向く気分にもなれずに無視したら松野くんの息が耳朶を掠めた。

「名前」

優しい声色。いつもよりワントーン甘い、松野くんが誘う声。思わずドキッと心臓を跳ねさせるけど今更そちらは振り向けない。きゅ、と拳を握ると、松野くんはそのまま言葉を続ける。

「何着てても俺は何でもいいんだよ、どんな名前ちゃんもかわいいからさ。でも、俺の下で喘ぐ名前ちゃんはもっと好き。かわいい」

かわいい、なんて言われても自分がそんな言葉にそぐわないなんて分かっている。それでも松野くんに言われると、嫌な気持ちではない。違うのだと否定したくて恥ずかしくなる。嫌ではないけど、隠れたくなる。

「名前ちゃん、ねえ、顔見せて」
「あ…、や」
「やじゃなくてさぁ」

うわ、うわ、今絶対顔赤い。
照れてるとか、そういうのではない。かわいいなんて自分に当てはまらないから擽ったい。それがなんとも居心地が悪くて、それなのに嫌な気分にならないから、恥ずかしい。松野くんの手から逃れようと身を捩ると、それを無視して顎を乱暴に掴まれる。松野くんの顔が目の前に来て、わたしをじっと捉えた。

「ほらかわいい顔してんじゃん。何着ててもそんだけでかわいいのに」
「ちが…、」
「もっとかわいい名前ちゃん見せて。俺のこと、欲しいでしょ?」

なんとも強引な誘導だ。性交渉をしたいだけのくせに、ぐっと甘くなる声に酔わされる。かわいいと言われて素直に喜ぶ女の子になれないのに、松野くんはそれでもわたしを抱いて満足そうに笑ってくれる。それだけで、まあ、なんでもいいかあ、なんて思えるから不思議だ。

「、ん…っ」
「くち、あけて」

松野くんの手が腰を這い、ぐっと抱き寄せられる。松野くんの前では小花柄のワンピースだろうがチェック柄のワンピースだろうが、どうだっていいのだ。ただ松野くんが貪るままに乱されていれば、多分それでいいんだろう。

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