「就活?」

眉間に皺を寄せてぐっと顔を近付ける清光から逃げるように視線を逸らす。兼業が悪いことなわけではないが、こうも独占欲の強い近侍がいると少々気まずいのだ。近年は兼業をしている審神者の方が多いというのに、刀剣男士達はイマイチそれを理解してくれない。そもそも立場が違いすぎるのかもしれないが。

「う、うん……そろそろ面接行かなきゃ……」
「俺聞いてないんだけど」
「ごめん……」

手に汗が滲む。ここで行くなと引き止められたらそれを拒む自信がない。業務そっちのけで仕上げた履歴書は今日まで誰にも見付からないように保管していたので知らないのも当然だ。隠していたのは悪かったと思うが、意図的に隠していたのも理由がある。察してほしいが、清光はますます不機嫌そうに目を細めた。

「勝手に行くんだね」
「…」
「俺が知らないうちに、他のところに行っちゃうんだ」

責めるような物言いに唇を噛む。言ってしまったら反対されると予測していたからで、現にこうも露骨に嫌がられている。叶うことならわたしだって審神者の職務に集中したいのだが、この御時世そうもいかない。何となく口が開けないまま視線を床に落としていると、清光が乱暴に顎を引っ掴んだ。

「俺を見てよ、主」
「っ…」

強引に視線が合わせられ、びくっと肩を上げた。清光の怒りがはっきりと伝わる。責められたら拒めない、引き止めないでほしい、それでも、自分へ向けられるこの視線に弱い。

「主、俺が反対すると思ってんの」
「、え」
「まあ、思うよね。俺余裕ないし、主が本丸に帰ってこなくなったらどうしようとか、思っちゃってるし、」

清光の視線が揺れる。こんな顔をさせたかったわけじゃない。清光にこんな思いをさせたかったわけじゃない。慌てて清光の袖を引くと、清光が顔を近付けてきて一瞬だけ唇を重ね合う。吸い付くように、ちゅ、と音を立てて離れていった。

「ごめん、そうじゃなくて、俺は黙って行かれるのが嫌なだけだよ。主が決めたことなんだから否定もしないし、隠されたくない。俺に応援させてよ」
「えっ、嫌じゃないの?」
「…良くはない。でも、嫌でもない。主が俺のこと忘れないでちゃんと本丸来てくれるなら、それでいいよ」
「忘れるわけ、」
「うん、忘れさせない」

清光がぐっと手を引き、唇が再び重なる。二度、三度と、しっとり合わさって柔らかな感触を感じていると、ぬるりとした熱に唇をなぞられる。招き入れるように薄く唇を開くと、口内に入ったそれはわたしの熱と絡み、ゆっくりとした愛撫を繰り返しながら口内を掻き混ぜていった。忘れるはずがない。こんなにも愛おしい気持ちを、こんなにも求めてしまう彼を、忘れるはずがないのだ。清光の腰に両手を回すと、唾液を絡ませながら熱い吐息を漏らし、舌、歯列、粘膜、全てを貪っていく。

「清光…っ、」

僅かな隙間から声を漏らすと、清光が少し顔を離して口端から垂れ出す唾液を親指で拭う。艶っぽい視線に身体が火照りそうだ。

「応援してるからそんな顔してないで、ちゃんと受かってきなね」
「そんな顔…?」
「俺のこと、大好きって顔」

ちゅ、と額に口付けられ、急な指摘に顔が熱くなる。好きだ。確かに大好きだ。こんな彼をどう忘れられるというのだろうか。

「い、行ってくる」
「うん。主、俺も大好きだよ」
「解ってるよ」
「でも言いたいんだよ。主、大好き」
「解ったから、っ」

清光の唇を両手で塞ぎ、黙らせる。愛されている自覚は十分にある。だからこそ、それ以上愛を紡がれてしまうと。

「もっと好きになっちゃうから、言っちゃだめ…」

困ったように眉を下げると清光は顔中に笑みを広げ、わたしの掌に口付けた。

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