乱れた着物を直していると、何の合図もなしに突然襖が開かれた。目を見開いた加州と目が合う。しかしそれは直ぐに逸らされ、奴が次に見たのは俺の膝元で眠りに就いている主だった。落胆。絶望。何と表してもそぐわない、どんよりとした黒に染まっていった。その濁った瞳を見て、俺は主を抱き上げる。

「出陣ご苦労であった、加州」
「…その手を離せ」
「聞こえぬな」
「離せって、言ったんだよ」

加州の声は震えていた。戦装束のままここへ直帰したのか、腰に収めている刀に手を伸ばしている。成る程尋常ではない殺気だ。

「はて、俺は加州に頼まれていたことをしたまでだが、言葉に矛盾しているのではないか」
「…」
「お前が皆に頼んだのだぞ」

加州はギリッと奥歯を噛むと、次の瞬間鞘を抜き、俺の首を狙う。すれすれでそれを避けてから主を抱いていた手を離すと、加州は主が宙にいるうちに素早く刀を鞘に戻して腕の中へ受け止めた。器用な奴だ。

「やはり、病とはいえ好いた娘を抱かれるのは堪えるか」
「…出てけ」
「…」
「出てけよ!」

加州が声を荒げる。こんなに気が立っている奴を見るのは初めてだ。一先ず退かなければ主を巻き込む可能性も大いにある。

「うむ。それではじじいは退散するとしよう」

いつもの笑顔を見せてやっても、加州は床に視線を落としたまま何も言わなかった。部屋の外に出ても主の発作の残り香がする。症状が治まってもこの香りに当てられたら他の刀剣は辛いだろうな。



翌日。
遠征から戻ると、本丸はやけに静かだった。近頃は資材が足りないと嘆く主の為に手が空いている刀剣の殆どは遠征に出掛けてしまう。今日の部隊長は俺ではない為、報告もなく本丸を散歩した。何時も元気な短刀達もどうやら居ないらしい。ふと顔を上げると、本丸の離で加州が資料を紐で括っていた。気を抜いたら倒れてしまいそうな量の資料がいくつも山を作っている。あれを一人で片しているのだとしたら夜まで掛かっても終わらなそうだ。手伝ってやろうかとも思ったのだが、昨日の今日でわざわざ奴の怒りを逆立てるような真似をしなくても良いと考え直し、歩いてきた路を帰っていく。
そういえば昨晩はどうなったのだろうか。主は目を覚まし、加州に叱られたのだろうか。責められでもしたのだろうか。俺が関わったことで二人の関係がぎくしゃくするのは、可哀想であるが好都合だ。加州と主は恋仲ではないのだから付け入る隙は幾らでもある。そう考えているのは俺だけでなく、主を狙う刀剣は皆が思っていることだった。早速とばかりに主の部屋へ足を運ぶ。前の遠征報告は終わった様子で中からは気配がない。

「主、居るか」

襖越しに部屋へ声を掛けると、暫くしてスゥと開かれる。見下ろせば気まずそうに視線を泳がす主が立っていた。

「み、三日月さん、どうなさいましたか…?」

ひょっこり顔だけを出し、最低限にしか襖を開かない。俺と二人きりになりたくないと言っているようなものだ。

「そう避けてくれるな。部屋に上げるなと加州に言われたか?」
「あ、いえ…」

加州の名を出すと主は弱くなる。途端に襖を開け、入るように目で訴えた。扱いやすくて良い娘だ。中へ入れば主は俺を追うように腰を下ろす。無言を貫いて視線を合わさぬのは、昨日の情事が堪えているのだろう。

「今朝は肌寒かったが、暖かくしていたか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。顔色も回復しているな」
「あ…、昨晩清光が傍にいてくれたので」

探りを入れる前に主から加州の名を口にする。一晩中付きっきりだったというわけか。ということはあれだけ怒っていた加州はどうにか自分を殺し、主の前では慰めに徹したのか。中々に気骨の確りした奴だ。

「ふむ、それは良かった」
「もしかして心配してくださったのですか?有難う御座います」
「いや…」

純粋な眼差しが苦しい。元より騙されやすい娘だが、こうも人を疑わないとやりにくいのだ。俺がこうしてわざわざ心配をしに部屋まで出向いていると本気で思っているのであれば、何と癡鈍な娘だろう。小さく笑って見せると主も釣られて笑顔になる。この扱いやすさは加州に同情すらしてしまいそうだ。

「さて、主よ。昨日に続けて回りくどい質問をしても良いか」
「どうかされましたか?」
「その発作というものは、こうも連日起こり得るものなのか?」

俺の質問に主は顔色を変えた。先程から漏れ出しているこの甘ったるい匂いは確かに昨日と同じ欲情の匂いだ。微かに、しかしはっきりと発作は起きている。俺を部屋に招き入れた時は何もなかったようだからまだ初期段階だ。主がふるふると首を振る。

「そんな…、きっと間違いです、二日も続けて起きたことはありません、わたし、平気ですから…」
「ほう。それでは、欲を孕んだその目も、俺の勘違いだったか?」

主の頬に手を添えると、ぴくんと反応して頬擦りをしてくる。意思に反して体が動くのだろう。自分の甘えたような仕草に主は動揺していた。

「ち、違います、これは、」
「勘違いか?」

主の唇に吸い付くと、んっ、とくぐもった声を上げながら俺の胸板を弱々しく押し返してくる。可愛い抵抗だ。何度もその柔らかな唇を吸い上げてやると、すっかり身体の力を抜いて俺に甘える。熱い吐息を漏らし、抵抗する振りをしながら身体はその先を求めているのだ。快楽に弱い正直な反応に口端が上がってしまう。

「いけま、せん、三日月さん…っ」
「何故だ?身体は男を欲しているぞ」
「だめ、で、す…」

主の帯を解くと、慌てたように暴れるのでさっさと着物を剥いでしまう。首許へ吸い付きながら反応を見ると、既に腰ががくがく揺れていた。

「いや…っ、清光、っ」

暴れて俺から逃れると、背を向けて逃げようとする。逃げられるものか。力の入らない身体で何が出来るというのだ。別の男の名前を呼ぶ娘など、益々俺の欲で塗り替えたい。

「赤子の様に這って、何処へ行こうとするのだ」
「あ、あぁう!」

四つん這いの主に背後から覆い被されば、身動きが取れなくなり一旦大人しくなる。項に吸い付き、胸の先端を両手で可愛がると、主はびくびくと肩を跳ねさせた。匂いがどんどん濃くなっていく。

「三日月さんっ、あ、おやめ、くださぁ、あ…っあん、あ」
「まだ堕ちぬか」
「あぁんっ、あんっ、ご、御容赦を…っ、」

啜り泣くように何度も何度も許しを請う。可哀想にも思えるが、構わない。加州に渡してなるものか、こんな機会を譲ってなるものか。加州を呼んでなんかやらない。俺の欲で満たしてやる。

「嫌がるわりには、こんなに溢れておるぞ」
「いやあぁ…っ」

穴からはしたなく蜜を垂らす主に指を突き入れる。二本も易々と咥え込み、動かす度に奥から更に蜜が垂れてきた。ぐぽっ、ぐぽっ、気泡を含むほど激しく何度も擦り上げる。

「三日月さんっ、いや、どうか御許しください…っ、清光を、清光を呼ばせて、くださ…っ、」
「この状況を加州に見せ付けたいとは中々の趣味をしているな」
「あぁ、あ、あんっ、ちがいます、はぁああ…っ!」

昨日と違って加州はこの本丸にいる。それに縋るように何度も加州を呼ぶ口が煩わしい。蕩けきった身体で加州を求めるな。カリカリと爪を立てて畳を引っ掻く主は、大きく足を伸ばしていた。気をやっても尚俺を拒む。

「何度気をやったのだ?快感を得ても満足しないのだろう。男の欲を飲まなければずっとこうして気をやってしまうのか?」
「ひ…っ、それは、それは嫌に御座います、御許しを、」
「冗談だ、直ぐにくれてやる」

内腿が攣れて苦しそうな主は、泣きながら俺を振り返った。嫌だ、嫌だ、と口にされる前に唇を重ねる。舌を絡めて擦り上げれば直ぐに身体は溶けていき、俺を受け入れるように上体を倒して尻を突き上げた。雌の本能が愛おしい。

「あ、あぁああ、ああぁ…っ!」

ぐっと腰を押し付けると、奥まで咥えた主は一突きで絶頂を迎えた。中が蠢いて吸い付かれる。早く飲み干したいのだと射精を促す動きに思わず息が漏れた。腰を持ち直し、緩やかに振り出すと、主はすっかり顔を畳に付けたまま喘ぎ狂う。

「ああっ、あっ、あっ、ぁあっ、あっ!」
「昨日より反応が悦いな…、奥を突かれるのが悦いのか?」
「ちが…っ、はぁ、あん!あ!あぁ、あ、あ、っ」

小刻みに口から漏れる嬌声。唾液を垂らし、蜜を垂らし、自身も床も濡らしながら俺を受け入れた。一突きする度に中が締まり、足が何度も畳を蹴る。じっとしていられない程身悶え、善がり狂う雌を見下ろすのは、何とも心地好い。爪を立てながら酸素を求めて舌を突き出す主は見るからに苦しそうだが、俺の熱を刻み付けなければ終われないのだ。

「みか、あ、みかづきさんっ、あ、あぁっ、はやく、はやく、っ」
「そう急くな…っ、直ぐにくれてやる、」
「あぁ、あ、もう、もう…っ、ああぁあ…っ!」

熱い内壁へ欲を擦り付け、何度も何度も腰を動かし昂っていく。俺を欲して何も考えられなくなった主が愛しくて仕方ない。幾度と俺を呼び、中を締め付けて痙攣する。

「はぁ…っ、」
「ああああぁあ、あぁ、あああ…っ!」

最奥に欲望を吐き出すと、主は顔を畳に押し付けて背中をピンと伸ばした。震える内腿を撫でてやる。嗚呼、加州にくれてやりたくない。

「み、三日月、さん…っ」
「うむ、終わったぞ」

口吸いを強請る主に従うと、自ら舌を絡めて貪ってくる。涙を溢し、快感に耐え抜いた主を宥めるように何度か繰り返すと、主はそのまま俺の下で意識を手放した。愛おしい娘だ。

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清光を呼ばない三日月さん。バックが似合います。名前様、お付き合いありがとうございました。
20170524
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