「主、っ」

目が覚めると清光がぐっと身を乗り出してきた。いつの間に寝ていたのだろう、記憶にない。起き上がろうとすると、体が気怠くて上手く動けなかった。ふらつくわたしの手を取り、清光は体を抱き寄せてくれる。

「あれ、わたし…?」
「…」

清光は何も言わない。ぐっと腕に力を入れて、わたしを力一杯抱き締める。ちょっと、痛いよ、なんて言っても清光はやめてくれなかった。ギリギリ締め付けられる体が苦しいのに、何だか少し安心する。清光の匂い。

「あ…、」

思い、出した。わたしはこの部屋で、三日月さんに遠征の報告を受けて、それで…。顔から血の気が引いていく。清光は知っているのだろうか。知っていて、わたしの傍にいてくれているのだろうか。三日月さんはもうこの部屋に居ない。わたしの服も寝巻きに変えられている。畳んであった布団を敷き、わたしを寝かしてくれたのは、三日月さんなのだろうか。それとも。

「き、清光、ごめんなさい」
「…いい」
「ごめ、なさ、わ…、わたし、」
「いいから!…謝らないでよ」

清光の声が掠れている。腕に更に力が入り、胸まで締め付けられそうだった。喉が狭くなって、首の裏が熱くなる。肩まで震えてくるといよいよ清光が気付いてわたしの頬へ手を伸ばした。

「主、泣かないで」
「っ…ごめん、なさ…」

清光の胸へ顔を埋めると、今度は優しく抱き締めてくれた。頭を撫でる手が心地好い。清光だ。大好きな清光の手だ。この感触、この体温、わたしはこれが好きなのに。

「ねえ主、俺、大丈夫だよ。どんな主でも俺の主じゃん。だから泣かないで」
「う…っ、わたし、自分でもわけわかんない、くらい、っ、体が熱くなって…っ、」
「うん、うん、大丈夫、解ってるよ。発作が起きたんだよね。大丈夫だよ主。俺は解ってるから」

清光の手も、震えていた。

「ごめんね。俺が傍にいてあげられたら、良かったよな」
「き、清光…っ」
「怖かった?嫌だった?ごめんね。発作を見られるのは嫌だよね。俺が相手でも主は自分を責めるのに、その人数が増えたら、耐えられないよね」

清光は優しく話し掛けてくれる。違う。わたしは、発作が怖くて、他の刀剣に見られるのが嫌だったわけじゃない。清光が相手じゃないから嫌だったのだ。好きな相手以外にも乱れてしまった自分が嫌になる。清光のことが好きなくせに、それを言葉にすることもできないし、不誠実な行動をしてしまうし、どうしようもない。いっそ清光に気持ちを伝えてしまいたい。でもそんなことをしたら清光と離れ離れになってしまう。清光が刀解されてしまうかもしれない。絶対に口に出してはいけない。だからこそ清光の優しさが辛かった。

「なぁ、主、俺さあ…」

清光がわたしの頬を両手で包み、視線を合わせた。切なそうに眉を寄せている。清光にそんな顔をさせたくない。軽蔑されたくない。清光に嫌われるのは、怖い。

「我が儘なのは解ってるけど、暫く遠くへの出陣は控えたい。それで主が非難されるのは嫌だから、なるべくでいい。やっぱり主が心配だよ。傍にいたい。畑仕事とか馬当番とかはちゃんとやるからさ、ね、なるべく本丸に居させてよ」
「え…、わたしに呆れ、ないの」
「何言ってるんだよ、さっきも言ったけど、どんな主も俺の主でしょ」

清光の親指が優しくわたしの頬をなぞる。宝物にでも触れるような優しい手つき。何で清光はこんなに優しいんだろう。何で清光はわたしなんかを助けてくれるんだろう。ますます好きになってしまう。清光の好意を都合よく解釈してしまいそうだ。

「ありがとう…っ、清光、ずっと一緒にいたいよ…」
「ずっとって…、な、何言ってんの?そんなの、俺もそうだよ…」

清光の声が弱まる。恥ずかしそうに視線を揺らすから、少し可笑しくて笑ってしまった。何笑ってるんだよ、と拗ねる清光。愛おしい。主としてでもいいから、ずっとこうして好意を向けてほしい。それだけでわたしは満足だ。

「あのさ、三日月さんと、話した…?」
「…何」
「迷惑かけちゃったから怒ってなかったかな、って」
「別に。俺から謝っといたから大丈夫だよ。主は気にしないの」
「でも、」
「主は周りを気にしすぎなんだよ。三日月だって全然気にしてない。だから今日は出歩こうとしないで大人しく寝てなね」

清光が少しぴりぴりしていた。三日月さんに何か言われたのだろうか。やはり迷惑を掛けてしまったのだろうか。近侍として長く傍に置いていただけで、わたしへの不満を清光にぶつけられてしまったら悲しい。清光は面倒見がいいが、わたしに全てを話してはくれない。酷いことを言われていないと良いのだが。

「ごめんね…」
「だから、そうやって謝らないの。主が落ち込んでたら俺心配でどこにも行けないじゃん」
「…うん。行かないで」
「えっ?」

他の刀剣に何と思われようと、今は暫く忘れたかった。三日月さんとまぐわってしまった事実は変えられない。ただ今は考えたくない。出来ることなら最愛の人の腕の中で何もかも忘れたい。我が儘が過ぎるだろうか。

「今夜だけでいいから、傍に居てほしい…」

勇気を出して清光の服の裾を握ると、清光は一瞬驚いたように瞬きを繰り返し、とびきりの笑顔を見せてくれた。大きく頷かれて安心する。安堵と共にその胸に擦り寄ると、清光もわたしの背中をぐっと抱き寄せる。

「ずっといるよ。今夜も、明日も、明後日も…、主が求めてくれるのなら俺はずっと傍にいる」

清光の言葉に再び目頭が熱くなった。

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三日月と何かあったのバレバレですが審神者が鈍いです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20170524
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