あれから何日かは精気が抜けたようにぼうっとしていた。やることはやっている、はず。ただそれ以外の時間には何も考えたくなかった。誰かと関わりたくもなかったし、これ以上惨めになりたくなかった。今日も例外ではなく、日課となる業務をこなした後ぼうっと外を眺めて過ごした。

「主、戻ったぞ」

ふと、声が聞こえた気がする。窓の外を眺めるのを一旦止め、のろのろと襖の方に歩いていくと、彼方は気配を察したのかじっとわたしを待っていた。開けてやると、口許を袖口で覆って微笑んでいる三日月さんと目が合う。

「あ…三日月さん」
「遠征の報告をしたいんだが、今良いか?」
「え?あ、あぁ…どうぞ」

わたしよりずっと大きい三日月さんは、少し苦手だった。身長のせいというわけではない、三日月さんより大きな刀剣はいる。それでも、その笑顔の奥に隠してある圧力の含んだ目で見下ろされるのが少し怖いのだ。

「はて」

三日月さんは部屋に入ると、わたしが用意した座布団へ素直に腰を下ろして微笑んだ。相変わらず口許を袖口で覆っている。

「どうしたのです?」
「主よ、今日此の部屋に入った者はいるか?」
「え?いませんけど…」
「ふむ。他の部隊の遠征は、あとどのくらいで帰還する?」
「えっと、予定としては、早い部隊で7時間、遅い部隊は15時間だと思いますが」
「加州はそこにいるのか?」

三日月さんの意図が読めない。清光と三日月さんは不仲ではないけど特別仲が良いわけでもなかった。何を気にする必要があるのだろう。

「清光は遠征ではありませんが、今出陣している部隊にいます。特別扱いなんかしていませんよ。どうかされましたか?」
「不躾な質問で気に障ったか、すまんな。加州を特別扱いしているとは思ってはいない。しかし困ったことになってしまったな」

三日月さんは眉を下げるが、わたしを宥めるように笑顔を崩さない。感情が読めない。どうしたのか問うてもきっと答えてはくれなそうな雰囲気で何も話せなくなる。

「…暫しの間堪えてみるとするか。それでは主、報告会を始めるとしよう」
「はぁ…」

相変わらず掴めない人だ。

三日月さんの報告はいつも淡々としていて業務的だ。あくまで調査内容を報告するだけであって、そこに私的な感情を乗せることはない。こちらがどうだったのか問えばそれなりに答えてくれるのだが、成果以外の報告は基本的に不必要だと感じているのかもしれない。内容は真面目なものなので不満はない。

「それでは、今回の遠征もお疲れ様でした。要点を纏めて上へ提出したいと思います」
「うむ。俺が手伝うことはないか?」
「報告していただけただけで十分です。有難う御座いました」
「じじいは役立たず、か。他の刀剣のように扱ってくれて構わないのだがな」

ははは、と笑って見せる三日月さん。やはり圧力を感じる。他の刀剣に仕事を頼るときは、清光や堀川、長谷部等、確かに無意識のうちに頼りやすい刀剣を選んでしまっているのかもしれないが、それを責められるとやりにくい。

「誰かを贔屓しているわけではありません、わたしは平等のつもりです。何か目につくことでも?」
「いや、そうではない、言い方が悪かったか。今日は加州が帰ってくるまで他の刀剣に仕事を頼まない方がいいと思ったのだが、俺が役不足なのであればどう止めていいのか解らなかったのだ」
「何故清光が関わるのです?」
「ふむ…どうも回りくどい言い方は合っていないらしい。隠し事は苦手でな…」

三日月さんが困ったように肩を竦めた。確かに今日の三日月さんは煮え切らない物言いで少し様子がおかしい。三日月さんは口許を覆っていた袖口を下ろすと、静かに目を瞑る。

「これは…、成る程酔わされてしまうな」
「三日月さん…?」
「加州が戻るまで、と思っていたのだが、どうやらここが限界らしい」

言葉の意味が解らず困惑していると、三日月さんの手がわたしの腕を掴む。ますます意味が解らないまま引き寄せられ、不意をつかれて何の抵抗もできずに三日月さんの膝の上に乗せられてしまった。急に詰められた距離にぎょっとする。

「な、何ですか、っ」
「ほう。やはり本人には解らないのか」

三日月さんの意味深な言い方に混乱するが、更に口を塞がれて頭が真っ白になった。

「ん…っ!?」

しっとり重なる唇。三日月さんの柔らかい熱がわたしの唇を強引に割り、中で舌を探り当てた。ぬる、ぬる、と擦り合わされると途端に体が燃えるような、お腹の底から沸き上がる熱に思わずきつく目を閉じた。これ、すごく気持ちいい。

「む、はぁ…っ、ん、んん」
「っ…甘いな」
「ふあ、ぁ…っ?ん…」

舌が溶かされるくらい、熱い。舌先をちろちろ愛撫されただけで腰に熱が来て、どんどん頭が回らなくなる。気持ちいい。熱い。もっとしたくなる。三日月さんの首へ腕を回すと、三日月さんはわたしの帯を解きながら舌を絡ませ続けた。唾液でどろどろだ。

「っふ、ぁ…っ、三日月さ、」
「凄いな…此方まで引き摺り込まれそうだ」

三日月さんが眉を歪めている。額には僅かに汗が滲んでいた。この部屋が急に暑くなったように感じ、気づけばわたしも汗をかいていた。この感覚、もしかして、発作が起きているのかもしれない。

「あ、あの、三日月さん、」
「はは、やっと気付いたようだな。悪いが止められないぞ」
「あんっ、あ、はぁ…っ」

三日月さんの指がわたしの胸の突起を強く押し潰す。清光より少し強引で力強い刺激。びくんと腰を跳ねさせると、三日月さんは満足げに口端を上げた。

「お、おやめくださ…っ、あ、あんっ、いけません、三日月さん…っ」
「快感に委ねればいい…、主、これはただの処置だ」

小刻みに指を動かされればその度にぴくんぴくんと肩が跳ねて熱くなる。溶かされてしまう。気持ちよさに抗えない。でも、わたしは清光に大切にしてもらったのに、こんな不誠実な人間でありたくはない。

「あ、あぁ…っ、三日月さん、おやめ、くだ、っ、おやめください…」
「無理だと伝えたはずだぞ…、こんな匂いを嗅がされて、加州がいないとなれば、もう仕方ないだろう…っ」

三日月さんが突起にしゃぶりつく。前歯を立てて刺激され、そこを音を立てて吸い上げられた。強すぎる刺激に目の前がチカチカするのに三日月さんは更にもう片側を強く抓り、カリカリと爪で引っ掻く。腰が何度も痙攣した。

「あ、っあぁ、あぅん…っ!!!」
「はぁ…、達してしまったか」

三日月さんはわたしの胸から舌を離さず、自分の着物を乱していく。逞しい身体が見えると途端にいけないことをしているようで身を捩った。

「い、いや…っ、お待ちくださいっ、三日月さん、これ以上は…っ」
「待てぬ、何度も言わせるな」

三日月さんの声が荒くなる。一瞬怯んで抵抗を止めると、その隙に三日月さんが自身の熱をわたしの膣口へ宛がった。立派な男根に息を飲む。

「お、お待ちください、そんなの挿れたら、ま、待っ、」
「くどい。待てぬのは俺だけではないだろう」
「そん、なぁ…っ、あ、ぁああっ!」

ごり、と音がした気がする。強引に腰を掴まれて下ろされると、一気に奥まで貫かれた。まだ触れてもなかったというのに簡単に咥え込んだそこは、更なる刺激を得ようと必死に熱に吸い付いた。三日月さんが苦しそうに息を吐く。

「は、あ…っ、熱いな…」
「あぁっ、あ、ああぁあ…っ!」
「意識を飛ばすなよ」

挿れられただけで大袈裟に腰が痙攣し、何度も達する。快感が強すぎて逃げたくなるが、三日月さんがしっかりと腰を掴んでいるので抵抗ができない。逞しい腕でそれを上下に揺さぶられると、わたしの身体は厭らしく三日月さんを求めているように動いてしまった。気持ちいい、また達する、もっと、もっと溶かされたい。

「あぁっ、あ、あん!あん、あ!あ、あ、あぁ、あ!」
「ふ…、自ら腰を振って、愛いやつだ、そら、ここが悦いか?」
「っあ、ああう…っ、そこ、そこはいやです…っ、あ、あ、そこぉ…っ、だ、めぇ…っ!」

三日月さんが奥まで腰を遣い、下から熱を刻んでいく。それ以上がない快感を更に覚えさせられる。舌が回らない。気持ちよすぎて狂いそうだ。後から後から漏れる蜜で三日月さんを汚し、欲望を突き立てられて喜び喘ぐ。獣のような交渉に脳が溶かされていった。ごりごり奥を抉られ、何度目か解らない絶頂に爪先をピンと伸ばす。

「〜〜〜…っ、あ、ああぁあ…っ!」

大きく背中を反らすと、三日月さんがどくんと奥へ熱を吐き出した。胸の突起が大きく勃ち、股から下は力が入らない。涙で濡れた顔のまま三日月さんを見つめると、宥めるように微笑んでくれる。

「自分を責めるでないぞ」
「あう、あ、あぁ…」
「加州とは恋仲ではないのだろう?」

一時的な快感で忘れていた清光の存在を、三日月さんから聞かされて初めて思い出した。ハッとして顔色を変えると、三日月さんはわたしの頭を優しく撫でる。大きくて少し湿っていた。

「主、俺達に悪いなどとは考えるなよ」
「でも、あ、あの…」
「加州はやはり、特別か」

三日月さんの目が哀しげに細められる。やはり苦手な視線だ。わたしが悪いのだと、責められているような気分になる。言葉が上手く浮かばなくなる。動揺して視線を泳がせると、三日月さんはわたしの後頭部をぐっと引き寄せ、自分の胸板へ押し付けた。

「すまん、余計だったな。落ち着くまで何も言うな」
「…はい…」

三日月さんの腕の中は暖かくて、強い睡魔に襲われる。二度、三度と瞬きを繰り返して追いやろうとするものの、心地好い倦怠感に包まれたままでは、それには抗えそうになかった。

--------------------
自分を責めるなと言いつつ清光を贔屓する主を責めてしまう三日月。単なるヤキモチです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20170523
(  )
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -