「電話業務?」
「そ。上司が休暇を取ってる間だけだけどね。いろんな問い合わせがあるから対応に慣れるまで疲れるんだよね」

電話業務、ね。

「…ふうん」

適当な相槌を打つことしかできなかった。リオンがお仕事を頑張ってるのは分かってる。でも、もやもやする。リオンのこの声、この甘く優しい声は、わたしだけのものであってほしいのに。そりゃあわたしだけが独占するなんて現実的ではないけれど、だからって電話業務は、なんていうか…。

「なーに拗ねてんの」

リオンがわたしの頬をぷにっと指で触れる。いつもならここからじゃれ合いが始まるけど、今日はそんな気分になれなかった。ムッと口を閉ざしたまま目を逸らすと、リオンはそれを追うように顔を覗き込んでくる。

「ん?名前?」
「…」
「ねえ、あんたほんとにどうしたの?」

むにむにと相変わらずわたしの頬を触りながら眉をひそめた。ぐっと顔が近づき、おでこが触れ合う。リオンの体温を感じると内側からじんわり気持ちが溶かされるような気がするから苦手だ。こんな汚い感情を和らげてくれるようだから上手く受け入れられない。

「あんたさぁ、どうしたの」
「…」
「…何で泣きそうなの」

リオンがわたしの後頭部に手を回して引き寄せた。胸にすっぽり収まると、リオンは優しく頭を撫でてくれる。あったかい。

「情緒不安定。そんなあんたも可愛いけどね。よしよし、泣いてもいいよ」
「べつに、泣かない…」
「はいはい我慢しないの。どうしたのさ」
「べつに…」
「別にじゃないでしょ。俺のこと?」
「…」
「俺のことなんだ。なぁに?不安になっちゃった?」

リオンの声が耳を擽る。少し低くて心地好く通る、大好きな声。耳の近くで囁くときはぐっと声が甘くなって吐息が混ざるのも色っぽい。この声、誰にも聞かせたくないのに。

「あんたってたまにそうなるよね。俺はいつだってあんただけだよ。もう知ってると思うけど、あんたしかいらないから」
「…リオンは何でわたしを閉じ込めちゃいたいって思うの?わたし、リオンだけだよ…」
「んー…あんたをとられるとか逃げられるとかって心配はあんまりしてないよ。人間なんか俺に敵うわけないんだからね。でも、あんた自身を他の男に見られるのが嫌なんだよ。あんたを見ていいのは俺だけ、あんたに触れていいのは俺だけ、あんたを感じていいのは俺だけなんだから。外に出たら俺だけじゃなくなる。それに耐えられない」

リオンの言ってることはめちゃくちゃで、いつもこの独占欲を理解できずに苦しんでいた。でも今日は、今日だけは、何だか共感してしまいそう。

「わたしも、リオンがわたしだけって分かってるんだよ…」
「うん、あんたは分かってるよね。でも俺を独占したくなった?」
「…うん」
「かぁわいい。何が嫌だったの?電話業務?」
「うん」
「あぁもう、あんたさぁ、可愛すぎるよ。もっと抱き締めさせて」

リオンはわたしの腰を掴むと、ひょいっと体を持ち上げて自分の膝の上にわたしを乗せてしまった。こうなるとリオンはしばらく離してくれない。でも、今日はそれで良かった。リオンの首に腕を回す。

「リオン…」
「なぁに可愛い声出してんの。俺あんたの泣き声に弱いんだけど」
「泣いてないけど」
「泣くの我慢してるからね。こんなことで妬けちゃう自分が恥ずかしいの?別にいいのに、俺の方がいつも妬いてるんだから」

リオンは背中をトントンと優しく叩いて宥めてくれる。分かってる。リオンはわたしだけ、本当に一途でいてくれる。それでも他のひとにこの声を聞かせたくない。こんなにかっこいい声をしてるから心配になる。

「名前は本当に可愛いなあ。俺の声、好き?」
「すき…」
「可愛い、もう1回言って」
「リオンの声が、好きだよ」
「ふふ、俺もあんたの声好き。この声で愛を囁くのも、ベッドの上で追い詰めるのも、こうして必死に慰めるのも、あんたにだけだよ。あんたもそうだよね?あんたのその声だって、愛を受け止めるのも、ベッドの上で鳴くのも、可愛く泣いちゃうのも、俺にだけでしょ?あんたも俺もお互いにしかない特別な声で喋ってんの。何に妬けるっていうの」

優しい優しい穏やかな声。いつもならこうしてわたしがリオンを慰めて宥めるのに、何だか笑えてきた。

「ふふ、本当に情緒不安定なのかも。ごめんね」
「いいよ、あんたが俺の声好きなのは本当でしょ」

リオンは嬉しそうに笑ってわたしの頬にキスをした。かわいい、うれしい、なんて漏らしながら、ちゅ、ちゅ、と何度も繰り返す。

「ねぇ、あんた俺に名前呼ばれるのも好きだよね」
「えっ」
「こうしてさぁ、耳許でされんの」

リオンがわたしの髪を掻き上げてわたしの耳に唇をくっ付けた。息が、当たる。

「名前」

ぞくっと鼓膜を震わせる声。色気を増した甘い声がわたしに、わたしだけの名前を呼ぶ。なんて心地好いんだろう。

「俺が中にいるとき、名前を呼ぶと締め付けるよね。何度も何度も繰り返すと、あんたすぐイッちゃうの。俺の声だぁいすきだもんな」
「な、なん、」
「あは、気づいてたよ」

リオンがにやにやと笑いながらわたしの服の裾から手を忍ばせた。素肌に触れられるとぴくっと肩が揺れる。

「嫉妬させちゃってごめんね。ってことで、今日は優しくするから、いつもみたいに俺の声でイッてよ」
「別にリオンの声でなんて、」
「名前、可愛いよ。ね。俺の声で乱れて、可愛い声を俺に聞かせてくれるんだろ?」

大好きな声で興奮し合う。最高の媚薬だ。そんなこと認めたくもないのにリオンの声で誘惑されたら不思議と拒絶ができない。ね、俺の声で気持ちよくなろ、なんて悪戯に笑うリオンに身を委ねたくなる。自分の口から同意を表すのは少し恥ずかしくて、わたしは誤魔化すようにリオンに抱き付いた。


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あの声、反則ですよねえ。
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