キスマークを付けないと出られない部屋

「えっと…。」

落ち着け私。まず状況を整理しよう。学校終わってバイト行って、へとへとになって帰ってきてすぐ晩御飯食べて、来週のテストに向けて勉強しなきゃだけど睡魔が強すぎるからちょっと仮眠〜と思ってベッドに入って目が覚めたら見知らぬ部屋でしたって何この展開?どこぞの名探偵もびっくりだよ?体は子ども頭脳も子どもの私には到底解明出来ない迷宮に迷い込んじゃったよ。
いやいやいや違うそんなくだらないこと考えてる場合じゃない!!!なにこれ!!!?どここれ!!???私さっきまでお家に居たよね!!!??ちょっとベッドで横になってただけだよね!!???なのになにこのただ広くて何も無い部屋!!??助けてお母さん!!!!!!!

「それに…」

チラッと横に目をやるとすやすや眠る美形男子が1人。そう、この部屋に閉じ込められていたのは私だけではないようだった。

ツヤツヤの黒髪。長い睫毛。すらっと伸びる手足は細すぎず太過ぎず。しかし、衣服の上からでもよく鍛えられていることが伺える筋肉の付き方。すやすや寝息を立てている彼を直視できず、背を向けて座り直す。

「やっぱり影山くん…だよね…」

影山飛雄。同じクラスのバレー部男子。あまり積極的に友達を作るタイプではないようで、入学してからというもの彼とまともに会話をした記憶がない。よって、つい最近まではただのクラスメート、その他大勢の内の1人、程度の存在だった。が。バレー好きの友達に半ば無理矢理連れて行かれた、春高バレー宮城県代表決定戦決勝戦。魅入った。あぁ、目が離せないとはこのことかと身を以て知ってしまった。運動はからっきしな私から見ても無駄のない動きだと分かる完璧なフォーム。セッターとしては勿論、バレー選手として非常に優秀であることを瞬時に理解した。
「かっこいい…。」と口に出してしまっていたことに気が付いたのは、隣にいる友人が私をニヤニヤと眺めていることに気が付いてからだった。

「…ん…。」
「っ!!!」

ビクリとして振り返ると、影山くんが目を擦りながら体を起こしていた。

「あっ…あっあの…これは…!」
「…ここどこッスか」

ムスッとしながら私に問いかける影山くん。
いやそんなの私が聞きたいんだがと思いながら「どこだろうね…」と答えるのが精一杯だ。

「私も目が覚めたらここに居てさぁ…家に居たはずだったんだけど…影山くんもお家にいたの?」
「まあそんなとk…あ!!!今何時っすか!!!!!」
「えっ!!??えと…時計持ってないから分かんないや…」
「チッ!!!!日向に朝練一番乗りされちまう!!アイツに負けるなんてありえねぇくそ!!!日向ボゲエエエエエエエエエエ!!!!!!!」
と雄叫びを上げて扉に突進していく影山くん。あの…あんまりおっきい声出すとご近所迷惑に…まぁ周りがどうなってるかなんて知らないんだけど。
ていうか、そっか、別に影山くんが目覚めるのを待たずにさっさと出てしまえば良かったのか。でもそれはそれでなぁ…。

「………。」
1人でぐるぐる思考を巡らせていたが、そういえば勢いよく扉に向かった割に影山くんが静かだなと思い、どうしたのと声を掛けてみると、ドアノブをガチャガチャ回しながらこちらを向いた。
「……なぁ、アンタ」
「え、あ、ハイ」

私の名前知らんのかい。

「俺にキスマーク付けれるか?」
「……は?」

えっ何怖いどうしたのこの人頭打った?

「いやそれは…どういう…?」
突然の問いかけにシドロモドロになりながら質問を重ねてみる。

「…ん。」
ドアに何か紙が貼ってあったようで、それをべりっと剥がしてこちらに持ってきた。

「『ここから出たくば、相手にキスマークを付けましょう』…って、え、は?」
「だから、アンタが俺に付けろ」

いや。いやいやいや。いやいやいやいや!!??
「いやちょっと!!待って!!??なにそれ!!??そんな…そんな急に言われたって…!!!私…!」

「?」
何でそんなキョトンとしてんだ影山!!!!!!と叫び出しそうになるのをぐっと堪える。

「え、だって、そんな…」
「?キスマークなんて、アンタが口紅かなんか付けて俺の腕とかにキスすればいいだろ。まぁ服とかでもいいか。俺は口紅とか持ってねぇし。」
「…へ?」
「そんな思っきりじゃなくていいだろ。マークが付けばいいんだろ、要は。ドアノブ回してみたけど鍵かけられてるみてぇだったから、やるしかねぇんだろうな。ったく、なんなんだこれ…誰のイタズラだよ…。」

え、あ、そういうこと…?え、キスマークってそういうことなの…?
カアアアっと音が聞こえるのではないかと思うほど、私の顔は耳まで真っ赤に染まった。
「えっと…そ、そっか…そうだよね…!!あ、ちょうどリップあるわ!色付き!!これで大丈夫ですね!!!あはは!!」

死にたいってこういう時に使うべきだなぁとしみじみ感じながら、軽くリップを付けて影山くんと向かい合う。

「…でっ…では。」
「うス」

ちゅっ

彼の手の甲に、少しだけ触れた。

あまりの緊張でぎゅっと目を閉じていた私は、恐る恐る目を開けた。

「「………。」」

が、この部屋に変わった様子は無かった。

「いや嘘でしょなんも起こらないじゃん!!!!???」
「チッ…!もう1回だ!!!」
「嘘ぉ!!??」

仕方なく、2回目のキス。
今度はさっきより、少しだけ彼の体温をしっかり感じた。

「「………。」」

やはり何も起こらない。

「どうなってんだよ…。もっと色が濃くないとダメってことか…?」
「色を濃く…。」

ってことはやっぱりこういうキスマークの付け方じゃなくて所謂キスマークを付けないといけないんじゃないかなと思うんですが影山くんいかがでしょうか…

「しゃーねぇ、俺もやる。それ貸せ。」
「え」

私の手からリップを取ると、おもむろに自身の唇に塗り始めた。

「えっあっ…」
口をぱくぱくさせながらその様子を眺めていた。
「…こんなもんか。悪い、これは後で弁償すっから。」
「いや…あの…えと…」
影山くんが私のリップ使って…これ間接キスだよ…!!!

「んじゃ、手貸して」
「えっあっはい」

言われるがままに手を差し出した瞬間、彼は私の手の甲に口付けた。私がしたよりもしっかりと。

ぽーっとしている私を余所に、キョロキョロと辺りを見回す影山くん。
しかし、やはり部屋に変化は無い。

「…まじでどうなってんだこの部屋…出す気あんのかよ…」
段々イライラしてきている影山くんに、私は思い切って伝えてみる。

「あっ…あの…」
「?なんスか」

「キスマークって…多分こういうのじゃなくて…その…所謂キスマークなんだと…思ったり…するんだけど…」

ごにょごにょ伝えてみるも、影山くんは不思議そうな顔でこちらを見つめ返すだけだった。やっぱりピンときてないか…!

「所謂ってなんスか」
「いや…だからその…恋人同士が付けるような…その…」
「?分かんねぇ。アンタ、それ出来んのか」

「えっ!!??いや…その…多分…」
一応やり方?は知ってるけど実際に誰かに付けたことなんてないしまず恥ずかしすぎるし…!!!

「じゃあ、頼む。」

またもあっさりと、事も無げに言い放った彼に少しだけ腹が立って、それと同時に、彼を少し驚かせてやろうと思った。

「…分かった」

ちぅ…っ

彼の首筋に勢いのまま吸い付いた。

「っえ」
ばっと首筋を手で覆う影山くん。

「これでしょ、キスマークって」

「なっ…」

真っ赤になった彼を見て、少し達成感を覚えていたのも束の間。

「…チッ…じゃあ俺もアンタにやるぞ」

「………へ?」

「『相手に』ってことは、互いにやんなきゃいけねーんだろ多分。現に扉も開いてねえし。とりあえず俺がアンタにもやってみる。」

「えっ、やっちょっと待っ」

ちゅぅ

「んっ!」
やだ変な声出た。

「…こんな感じか?」

しかし、彼は慣れていないらしく、あまりうまく跡が残らなかったようだ。

「出来てねぇな…もっかい…」

「ねえ待って影山く…ひぁっ…!」

ちゅ、ちゅ、と二回続けてされていた。
もう駄目恥ずかしすぎて溶けそう。

「何でだ全然痕付かねぇ。なぁ、アンタどうやったんだ。」
「んっ…と…軽く…吸うんだと思う…」
もうどうにでもなれ…と思いながらなんとか答えた。

「…なるほど」
「ねえ影山くん別に首筋じゃなくても手の甲とかで…んっ!」

ちゅ…ぅ

何も聞こえてない様子の彼は、そのままゆっくりと私の首筋に吸い付き、ゆっくりと唇を離した。

「んっ…」
「はぁ…っ…これでどう…だ…」

ガチャッ

「…あ、開いた…?」

私の首筋を見つめたまま固まる影山くん。
「…影山くん…?どうしたの…?」

「!!いや、あの、これ痛くなかったか…?」
割とくっきり跡が残ったのだろう。彼は若干動揺していた。
その姿がなんだか可愛くて、少し笑ってしまった。

「ふふ、痛くないよ?」
「…!そ、そうか。よかった。じゃあ、俺は、部活に」
「ねえ、影山くん」

いそいそと部屋を出ていこうとする影山くんを呼び止める。

「それ、みんなに見られちゃうね」
「…なっ…!」

影山くんて割と可愛い人かもしれないな、なんて思いながら、彼の手を取った。

「ほら、早く行こ?」
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