「薬研、ちょっと来なさい」
「え?」
「いいからいいから…」

アニメを見終わると丁度遠征から帰って来た薬研が部屋まで報告に来ていたので手招きをします。戦装束のままの薬研は不思議に思いながらも主様に近付きますが、もっと、もっとこっち、とどんどん招かれてしまいました。もう膝がくっつくくらいの距離で対面しているのですが、主様はもっとと仰います。薬研は主様の顔を覗き込みました。

「どうしたんだ?」
「薬研、わたしもう我慢できないから」
「は?」
「薬研のこと、触らせて」

薬研はワンテンポ遅れてから、は、と小さく声を漏らしましたが、主様の手はもう薬研の腰へと回っています。慌てて主様の肩を押しますが、主様はがっしりと腰を掴んだまま片方の手を太ももへと滑らせました。

「ああ〜…いい…」
「大将、正気か…?」
「ずっとこうしたかった…」

すべすべの太ももを堪能し、主様はご満悦です。びっくりするほど柔らかくはありませんが、弾力があって手に吸い付くようなのです。薬研は諦めたように力を抜き、立て膝のまま主様の肩へ手を置きます。主様は薬研の内腿を幾度か撫でて、短パンの裾へと指を入れました。

「っ、大将」
「ごめん、先に謝っとくけど今日こそは我慢ならない」
「待て、」
「後で何でもしますから!!!」

主様の声はとても力強く、薬研は従う他ありません。こんな審神者に仕えていて心配になってしまいます。主様の指は内腿の付け根へ上っていき、際どい部分をするすると撫でました。薬研は思わず腰を捩りますが、主様はやめません。

「大将、どこまで触る気だ?」
「もっと…もっと触らせて…」

はぁ、はぁ、主様の息は少し乱れていました。薬研は困惑します。主様には大事な近侍であり恋人である加州清光という刀剣男士がいるはずなのに、自分に手を出す理由が分からないのです。主様は薬研のお腹に鼻を押し付け、片手で内腿を、もう片手でお尻を揉みしだきながら薬研を見上げていました。その欲情しきった表情、熱を孕んで涙の膜が張った瞳で上目に見つめられ、薬研はドキッと心臓を鳴らしました。加州の旦那はどうする、おれは、誘われているのか。薬研は主様の肩に力を入れ、その体を意図も容易く押し倒してしまいます。

「や、薬研!?」
「何焦ってんだ?ほら、続けろよ」
「ちょっと、ちょっと…っ、」
「何でもするって言ったよな?後でじゃなくて今させてくれ」
「ち、ちょっと待って、そんなつもりは、」
「ここまで誘っといて何言ってんだ」

薬研がネクタイを緩めると、主様は真っ赤な顔をしたまま薬研を見つめていました。さっきまであんなに積極的だったのに急に大人しくなってしまって少々やりづらいですが、こんなに煽ったのは主様の方なのです。薬研は主様の頬を優しく指でなぞります。

「大将、目ぇ閉じてな」
「ん…」

主様はこくんと頷いて睫毛を伏せます。白い肌を見ていると吸い込まれそうで、薬研はごくりと喉を鳴らしました。再度主様の頬をなぞると、薬研はぐっと体を倒して主様の顔に自分の影を落とします。

「ストーーーーップ!」

と、そこで、部屋の襖がスパァンッと音を立てて開かれます。驚いてそちらに視線を向けると鬼の形相をした清光がふたりを睨み付けていました。主様は慌てて起き上がります。

「き、清光、どうしたの!?」
「浮気者」
「えっ」
「えっ、じゃないよ、主のバカ!何で俺以外に触らせてんだよ!こっち来て!」
「き、清光」
「はやく!」

噛みつくように怒鳴り散らす清光に従って恐る恐る近寄ると、清光は主様の手首を掴んで抱き寄せました。キッと薬研を睨みながら主様へ言葉を続けます。

「バカな主のことだから今週のアニメ見てまさかなって思ったよ、でも、まさか本当に浮気するなんて信じらんない」
「ち、違うよ清光、ちょっと太もも触ってただけじゃん」
「何が違うんだよ、そんなこと知りたくなかった!」

ぷりぷり怒る清光。主様はびくびくしながら清光を見上げますが、視線が合うことはありません。清光は険しい目付きで薬研を射たまま視線を逸らそうとしないのです。

「お前、どういうつもり?」

清光の声は普段よりずっと低いものでした。薬研はフッと笑って見せると、自分も清光を睨み付けます。

「大将は皆のものだろ?」
「主は俺のものだって解ってるだろ。勝手に手ぇ出さないでもらえる?」
「刀剣として審神者と親睦を深めるのもナシだって言うんだな」
「お前のそれは刀剣としてなんかじゃない」

清光は静かに腰に刺さっている刀に手を伸ばしますが、薬研はそれに気づいて「おっと」と両手を上げて見せました。小さく笑う薬研に対して清光は鋭い目付きを変えません。

「俺が悪かった、もう出てくよ」
「…」
「ただし大将には一度じっくり言っといてくれよ。俺だって男だ。誘惑されたら必ずしも抗える訳じゃないってな」
「…言われなくてもこれから俺がそれを解らせてあげるんだよ」
「はは、そうか」

薬研は、邪魔したな、と一言漏らして部屋を出ていきました。殺気立った部屋にいるのが気まずくて主様もこっそり清光の腕から逃れようと体を捩りましたが、清光はがっしりと主様の肩を抱き寄せたまま離しません。

「主、分かってるよね」
「えっ」
「分かってるんだよな」

声を大きくされているわけではないのにずっしりと響く圧力に主様は額に汗を浮かべました。清光の怒りがチリチリと伝わってきます。笑って誤魔化そうかと思って表情を作りましたが、清光は主様を畳へやや乱暴に押し倒し、その作戦は失敗に終わったようです。

「あ、あの、清光、」
「どうして…」
「清光?」

押し倒されたときに背中を打って痛かったのですが、そんなこと言ってられない清光の表情に主様は息を飲みました。怒り、悲しみ、ふたつが入り混ざった目で主様を責め立てるように見つめます。主様が清光に手を伸ばそうとすると、清光はその手を振り払って主様のお召し物を引っ掴み、そのまま左右に乱暴に引き裂きます。ビリッと布の破れる音がして、初めて清光が本気なのだと主様は解りました。

「ねえ主、どうして俺にこんなことさせるんだよ、主のこと大事にしたいのに…っ、何で俺にこんなことさせるんだよ!」
「清光落ち着いて…、」
「主は俺じゃなくても、いいのかよ…っ」

言葉を返そうとするとそのまま唇を奪われ、それは叶いません。清光は深いキスを与えながら主様の下着を剥ぐように脱がし、主様の抵抗をまるで無視します。主様は何度も清光の胸板を叩きますが、話を聞いてくれません。

「主、ちゃんと俺だけでいて、なぁ、俺だけを愛しててよ」
「清光、話を、」
「俺には、主だけなのに」

声を遮るキスはいつもよりも激しく、嫉妬に任せた乱暴なキスでした。

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薬研といけないことをする予定で書き始めましたが、この感想シリーズでは清光と恋仲設定だということを思い出して慌てて変えました。ほんの出来心からの浮気になってしまいましたが魅惑の太ももを思って許してください。
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