「いつまで待てば、手を出してくれるの…?」

やばい、ちょっと声が震えてしまった。
同じ布団で背を向けて寝る一松に、後ろから抱きつく。私にとって、史上最高の今までで1番大胆な行動で、攻める。もう付き合って1年経とうとしているのに、キスも数回程度、エッチなんて夢のまた夢である。では何故、今私は一松と同じ布団で寝ているのか。それは元を辿れはちょっと長くなる。



*****




「例の彼氏さんとまだ進展無しですか!?」
「やめて、それ、私が1番傷つくから」

バイト先の後輩と飲みに言って近状報告をする度に言われるこの一言で、私は何度心に傷を覆ったかわからない。

「それはもう、名前さんが攻めるしかないですよ!」
「やっぱり、それしかないのかな…」
「そうですよ!きっと彼氏さんの行動を待ってたって、また今までと一緒!ずーっとこのままですよ?自分から行動にうつさないでどうするんです?」
「でも…」

今までで1度だって一松にそんなことはしたことない。もし、そんなことをして一松に引かれて、嫌われたりなんかしたら…そう思うと、何もできなかった。

「正直、名前さんならもっといい人いると思うんですけど…いっそのこと別の人に乗り換えちゃえばいいのに!」
「それは絶対イヤ!」
「名前さん!名前さんは処女のまま閉経したいんですか?」
「それは、大袈裟過ぎない…?」


後輩の熱弁はそれ以降も続いた。お酒のペースも会話と共に上がってしまったようで、いつもより少し意識がフワフワしている。
そんな時、噂の彼一松からLINEが1通。

帰る時教えて、迎えに行く

先週会った時に今日後輩と飲みに行くって話したこと、覚えててくれてたんだ。ぶっきらぼうで、何考えてるか分からないけど、だからこそ時々見えるこういうちょっとした優しさが嬉しいし一松のそういうところやっぱり好きだ。

後輩と解散した後、居酒屋の近くまで迎えにきてくれた一松はいつもと変わらずにパーカーとジャージで、彼との会話もいつもと変わりない、今日はこーだった、後輩がどうだったとベラベラ喋る私に、一松が軽い相づちをうって時々疑問で返してくる。
いつもならそれだけでも充分幸せなのに、さっきまでの後輩との会話が頭から離れなくて、モヤモヤした。


「家まで送ってくれてありがとう」
「別に、このくらい普通でしょ」

じゃあ、そういって軽く手を振りながら一松は玄関の前から歩き出した。

「ま、まって」
「…なに」
「…もうかえるの?」
「え、うん」

名前さんが行動しない限り!きっと彼氏さんとはずーっとこのままですよ!

「……やだ」

一松のパーカーの袖を掴む。

「一松…」
「な、なに」

さっき後輩に言われた言葉を思い出して思わず一松を引き止めてしまった。ほら、一松もびっくりしてるよ。今さらこの腕を引っ込めて、冗談でーすなんて言えない。言えるわけない。もうこうなったどうにでもなればいい。勢いに任せてしまおう。

「今日は…朝まで一緒にいてほしい」



*****




「まって、お前、本当に酔いすぎだって」
「…そんなことない」

酔いがまわっているせいか、いつもよりも行動に迷いがない。もう後には引けない、一松の腰にまわした手に力が入る。酔っているからなのか、恥ずかしさからなのか、身体中があつい。

「ほんと、なんなのお前…」
「ごめんなさい、でも…って、えっ」

急に動いた一松に驚いて思わず目を閉じる。怒らせてしまったのだろうか。ドンと顔の横に両手をつかれ、おそるおそる目を開けば一松が私に覆い被さっていた。

「ほんと、ばかじゃないの…?」
「ご、ごめんなさい」
「……後悔しても、知らないから」

ジロリと私を睨むような表情、でもどこか不安げだった。一松のこんな顔初めて見た。
不意に一松の手が私の頬に触れる。それだけでも、ビクリと身体が動く。

答えてくれようとしているんだろうか、私の精一杯の訴えに。
シーンとした部屋の中でカチカチと時計の秒針の音だけが響く。

「……」
「……」
「…えっと、一松?」
「………ごめん、やっぱり無理」
「…え?」

そういって私の上から退け、また背中を向けて寝てしまった。
私の努力も一歩届かず…。
もうどうにでもなれと高を括ってはいたものの、実際に相手から無理と言われると結構キツいな…。

「名前」
「なに」
「こんなんで、ごめん」
「いいよ、別に、謝らなくて」

謝られたら余計辛くなる。
一松の言葉を聞いて、鼻の奥がツンとした。もういいからやめてくれと思う私の気持ちとは裏腹に一松はそのまま私に背中を向け、ぽつぽつと話し始める。

「俺、ずっと不安だった…俺なんかが名前の彼氏でいいのって」
「…うん」
「今だって…本当はしたいって思ってるけど、初めてだし、優しくできなかったらどうしようとか、もしここで名前のこと傷つけたら…嫌われたらどうしようとか考えると怖くて…」
「一松…」
「どうか、俺のこと嫌いにならないでほしい」

さっきまで大きく見えていた一松の背中がやけに小さく見える。
一松も私と一緒で、ずっと不安だったんだろうか。そう思うと、なんだかすごく安心した。私だけじゃなかったんだ。

「…ふふふ」
「え、笑うところ?」
「あ、ごめん」

一松の本当の気持ちを聞いて、さっきまでのモヤモヤが取れていくのを感じる。
ずっと背中を向けていた一松が私の方へ向き直った。笑ってしまったことが気に食わなかったのか、不服そうな顔でこちらをじっと見つめている。嫌いにならないで欲しいなんて言われた後では、その姿も全部含めて愛おしくて、私は優しく一松の髪を撫でた。

「私には一松しかいないよ」
「名前」
「…んっ」
「………と、とりあえず今日は、これで勘弁して」

目を逸らしながらそう言うと、勢いよく布団に潜った。触れるだけの優しいキス。一瞬のことで理解するのに数秒かかったけど、これが今の一松の、精一杯の答えなんだろう。

「お、おやすみなさい!」

唇に残る感触からじわじわと赤くなっていく顔を誤魔化すように私も布団に潜った。
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