※バンド松

「…お疲れっした…」

全国ツアーの打ち上げを終え、
ほろ酔いのまま帰路に着く。
自宅であるマンションへ帰るのは久々で
愛しい彼女にやっと逢えると思うと足取りも軽くなった。

部屋の電気は消えているので
おそらく寝ているのだろう。
まぁ、遅い時間だから無理もない。

音を立てないよう静かに寝室へと向かう。
ベットの中には微動だにしない彼女の姿。

「…ただいま」

寝ていると分かってはいても、
返事が返ってくるはずもないと知ってはいても、
声をかけずにはいられなかった。

彼女の頭を撫でようと、そっと手を伸ばした瞬間
がばり、と勢い良く彼女は上半身を起こすと

「壱くん、お帰り〜!」

そう言って、ぎゅうっと抱き付いてくる。

一瞬何が起きたのか分からず、
理解するまで数秒かかった。

「…寝てたんじゃないの?」

俺もぎゅうっと抱き締めながら尋ねる。

「寝てないよ?ずっと起きてたよ?
だって今日は久々に壱くんが帰って来る日だもん!」

そう言って照れたように満面の笑みを浮かべる彼女。
相変わらず電気は消えたままだけど
暗闇に目が慣れてきたせいか少しは表情が分かる。

そんな彼女が可愛くて愛しくて

どさり

気が付くと、ベッドに彼女を押し倒していた。
ゆっくり、ゆっくりと彼女に覆い被さる。
俺の長い髪が、はらりと肩から落ちて彼女の頬にかかる。
少しくすぐったそうにしているが、
そんなことはもうどうでも良かった。

触れるだけの軽いキスをする。

「…ん、壱くん…逢いたかった…大好き、壱くん」

俺の名前を呼ぶ優しい声と、
久々に感じる柔らかい唇の温もりに、くらくらする。
きっと酔っているせいもあるのだろう。

俺もずっと逢いたかった。
いつも、あんたのことを考えてた。

そう呟く変わりに何度も何度も口付けをした。
時には可愛らしいおでこに、長い睫毛に、
うっすら上気してピンク色に染まった頬に、
細い首筋に、沢山のキスを降らせる。

「ふふっ…壱くん、くすぐったい」

「ヒヒ…さーせん」

「ねぇ、壱くん?全国ツアーお疲れ様。
私も行きたかったなぁ…ライブしてるときの壱くん、
近くで、生で見たかったなぁ…」

「…お客さん…運が良いねェ…今夜は特等席だよ…」

俺は彼女から一度、身体を離し、間接照明を付け、
部屋に立て掛けてあったギターを手に取った。
ベーシストだけど一応ギターも弾ける。

ベタで甘々なラブソング。
普段はあまり、こういうことはしないけど今日は特別。
酔いのせいにでもしておこう。

直接口では言えないから、この音と歌に乗せて。
少しで良い…少しで良いから、どうか、この想いが
伝わりますように。

「壱くんのギター弾き語り…好き…。
まるで私の為だけに歌ってくれてるみたい…」

「…そう思ってもらっても構わないけどね…」

「…え?壱くん、それって…」

「ハイ…今日はここまで…」

彼女の言葉を遮り、無理矢理終わらせる。
照れと恥ずかしさで、みるみる顔が赤くなる。
だから…俺、普段こんなキャラじゃないんだって…。

「ねぇ、壱くん、さっきの…ん…」

さっきの意味深な言葉が気になるらしい彼女の口を
俺の口で塞ぐ。

「…はいはい、これから時間をかけて
じっくりあんたの身体に教えてくから…」

言うと同時に再びベットへ押し倒していく。
ギシッと軋むスプリング音が部屋に響いた。
ここから先は二人だけの秘密。

あんたは分かってないんだ。
俺がどれだけ、あんたを想っているか…。
だから、この想いを音に乗せよう。
遠く離れていても、あんたに届くように。
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