「誰でしょーか?そう、チョロ松でーす!」

時計の針も12時を過ぎた頃。待ちに待った休日を明日に控え、何をしようかと予定を考えながら寝る準備をしていた時。ガンガンと乱暴に叩かれる玄関の音におっかなびっくりしながらドアを開けるとご機嫌にアルコール臭を漂わせながらこの台詞である。正直、時間を考えて欲しい。

「・・・チョロ松、あんたどーしたの・・・」

呆れ半分、諦め半分で問いかけると案の定、泊めてー、とご丁寧に語尾にハートを付けて申し出てくる。終電、終バス逃したって、あなた、ここから自分の家まで徒歩で30分程度で着くでしょうに。

「おっじゃましまーす!」

100%死んだ魚の目をしていただろう私の隣を意気揚々と通り部屋に入り込んだこの自由を誰か止めてほしい...。部屋に入り込んで、トイレで盛大に胃の中身をリセットしたチョロ松は今現在、ご機嫌に私が楽しみにしていたお酒を飲んでいる。あぁ、私のお酒...

「名前、もう一杯、ちょーだい?」
「チョロ松、ちょっと飲み過ぎじゃない?」

リキュールをグレープフルーツジュースで割って、楽しそうに話すチョロ松を肴にお酒をゆっくり飲む私に対し、チョロ松は何故か持参していた缶ビールを2本煽った挙げ句、物欲しそうに私が飲むお酒をねだってくる。

「えー、まだ全然飲めるんだけど...」
「うちに来る前も飲んでたんでしょ?さっき戻してたし...私ももう飲み終わるから、もう寝よう?」

うー、と幼子みたいにぐずりだすチョロ松を可愛いなぁ、と思いつつグラスに残ったものを飲み干す。あぁぁ、と眉を下げて少ししょんぼりした顔は見なかった事にして、チョロ松の手を引いてベットへ導いた。

「チョロ松、名前さん眠たいから一緒に寝て?」

そうお願いすると、仕方ないなぁ、なんて少し嬉しそうに顔を綻ばせて横へ入ってくる。私の頭を抱き込むようにして横になり、無意識なのか、意識してなのかはわからないけれど、ほっと息をついて落ち着く、と言葉をもらす彼に思わず頬が緩んだ。

「チョロ松」
「んー?」
「明日予定は?」
「名前は僕に喧嘩売ってるの?あるわけないでしょ。」
「怒らないでよー」

んふふ、と笑うと少し怒ったように頭をくしゃっとされた。目線だけ彼の顔へ向けると、さっきまでゆるゆるだった口元をへの字にしてこちらを見てる。

「んふふ、あのね?」
「...何?」
「明日ね、一緒に行ってみたいお店があるの。ランチが安くて美味しいって同僚の子に教えてもらって。チョロ松と行きたいなぁって。」
「どんなお店?」
「その子が言うには、イタリアンがメインなんだって。メインのパスタとか何種類からか選べるみたい。セットにサラダとスープ、パンがついてきて、+100円で飲み物が、+300円で飲み物とデザートがつけれるって言ってたよ。デザートのプリンが絶品だって。」
「ふーん。」
「明日起きたらお昼前まで、ベットで一緒にゴロゴロするの。それで、お昼になったらそこのお店でランチ。お昼食べたら、最近チョロ松がよく部屋に来てくれるから、おそろいのコップとかお皿とか買うの。そのまま夕方までふらふらして、軽く何かおなかにいれて、この前チョロ松が見たいって言ってた映画みるの。ポップコーンはキャラメルがいいなぁ。それで、見終わったら二人でスーパーに行って晩御飯の買い物して、買ったおそろいのお皿使って、映画の感想とか話しながら晩御飯食べるの。食べ終わったら、チョロ松が食後の一服してる横で私は洗い物して、一緒にお風呂入るの。それで、髪の毛乾かしあいっこして、ベットでまたいろんな話するの。素敵な休日だと思わない?」
「...いいとは思うけど、名前はゆっくりしなくていいの?今週めちゃくちゃ忙しいって一昨日電話で泣きついてきたじゃん」
「泣きついてない!!」
「あーはいはい、そういうことにしといてあげるよ。」
「私は泣きついてないですぅー。」
「言い方がうちのくそ長男に似てて腹立つ。酔ってるでしょ。」
「うぇ、気をつけよ...。若干酔ってる、の、かなぁ。少しふわふわしてる。チョロ松は?さっきまですんごく酔ってたけど...。」
「名前抱きしめてたらだいぶ覚めた。」
「なんでよ。」
「そういうこと聞く?」

チョロ松が言い終わると同時に視界がチョロ松の服から、天井の色と彼の顔に変化する。眉間に少ししわをよせて、口をへの字にしている表情が少し色気をおびていた。

「...残念だけど、今日はダメ。」
「...なんでよ。」
「明日お出かけしたいもん。チョロ松とデート行きたい。」

そう言うと、への字の口をさらにへの字にした後溜め息一つ。しょうがないなぁ、なんて口元をゆるめてもう一度私を抱きしめて横になった。

「また、明日の夜にね。」
「...我慢できるかなぁ...。」
「頑張ってしてください。」
「...善処します。」

ほら、明日出かけるならもう寝るよ、と言ってチョロ松は私の頭を胸元へよせる。おやすみ、と二人であいさつした数秒後には、すよすよと彼の寝息が聞こえてきた。

「(寝るの早いなぁ...)」

なんて、思いながら、耳を彼の胸へよせる。

「(あ...)」

心臓の音。とく、とくと一定のリズムで音を重ねている。その音に安心感を覚えて、情事のあと、彼がよく私の胸に耳をよせてほぅ、と溜め息にも似たものをついている理由がわかった気がした。

「(ほんと、なんでだろう。この音、安心する...)」

彼の小さな心臓が奏でる音に絶対的な安心感を覚えながら、自然に瞼が下がっていくのに抵抗することなく目を閉じた。

「...おやすみ。良い夢を」

私が寝息をたてはじめた頃、すでに寝たと思っていたチョロ松が優しい表情をしながらそう言って頭を撫でてくれたなんて、夢の世界に飛び込んだ私は知ることもなかった。そんな幸せな休日の前夜。
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