※エロはありませんが血が出てきます

足の間から血が垂れている自覚はあった。ショーツに滲んで、いずれは布団を汚してしまう自覚も。でもそれ以上に痛みに抗えなくて踞ったまま体勢を変えられない。痛みで起こされてからはずっとそうだけど、リオンが起きる前にどうにかしなければならない。

「っ…」

少し足を伸ばしただけで刺すような痛みに息を飲み、慌てて元の位置に戻す。冷や汗がだらだら止まらなくて、とにかくお腹を守るように背を丸めるけどショーツがどんどん湿っていって重たくなっていく。予定日よりだいぶ早く来たからナプキンなんか用意してなかったし、生理痛が重くなるのも稀だからこんな事態は予想もつかなかった。どうしよう、全然動けない。

「ん…」

隣でリオンが寝返りをうつ。びくっとして息を潜めたけど、リオン、起きないよね。お腹を抱える手に力が入る。次の瞬間、バサッと布団が捲られて視界が急に開けた。

「!?」

びっくりしたけど顔も動かせない。視線だけのろのろ上げてみると、部屋は真っ暗なままだけど布団は確かに剥ぎ取られている。理解が追い付かなくて頭は混乱を始めて、それから、やっと状況が飲み込めた。リオンはどうやら起きたみたいで、今、わたしの上に覆い被さって目をギラギラさせていた。

「り、リオン…?」

小さく名前を呼んでみる。暗闇の中でも目が慣れているから何となくリオンの姿は見えるけど、多分リオンは角も翼も飛び出していて、わたしを見下ろしながらフーフーと息を荒くしている。何が何だかさっぱり分からない。目が獣のように光り、牙が口に収まりきっていない。どうしちゃったの。

「リオン、ねえ…、」

怖くなって顔をそちらに向けると、リオンはわたしの顔に手を伸ばして目尻に溜まった涙を乱暴に拭った。いつもの優しく触れてくるリオンじゃない。

「あんたのそういう顔久しぶりに見たなぁ。そういえば初めて会ったときもそんな顔をしてたね」
「ど、どんな顔…?」
「驚いてるような、怖がってるような、そんな顔。今俺に怯えてるでしょ。俺のことしか考えてないみたいな顔してる。かわいいなぁ」
「だってリオン、人間じゃなくなってるよ、どうしたの?」
「名前がかわいい顔見せてくれるからかもね。あとはこの匂い」

リオンはわたしの足の間に視線を移す。やっぱりもう血が垂れているのか、布団も濡れているような気がした。リオンは小さく喉を鳴らすと、深く息を吸い込んだ。

「あんたの血の匂い、たまんない。もっとあんたのこと汚したくなるよ」
「何言ってるの…」
「前にも言ったでしょ、俺はあんたのことを汚したいし、食べちゃいたいと思ってるんだ。こんな匂いを嗅がされたら動物的な欲が抑えられなくなる」
「た、食べるの?」
「食べたいけど、するわけないだろ、それくらい分かってよ。でも、苦しそうなあんたの顔見てるとますますおかしくなりそう…」

リオンはそこまで言うとガバッとわたしから体を離し、部屋を出ていく。びっくりして起き上がろうとしたけど痛みに止められた。虚しく横たわったまま大人しくリオンを待つ。暫くするとリオンは薬を持って帰ってきて、それをわたしの口に放り込んだ。

「早くよくなってね。そして俺を拒んで。そうしないと俺、無抵抗のあんたをどうにかするよ」
「え、リオン…んっ」

リオンは口移しで水を飲ませてくる。こくこくと喉を動かすと、薬が喉を通っていった。痛み止め、かなあ。

「飲めた?」
「うん」
「じゃあすぐに効くね。それまでこうしてる」

リオンは戻さなかった翼(というか戻らなかったのかもしれない)でわたしを包むと、再びベッドに横になった。黒い羽毛がふかふかであったかい。

「リオン、あんまりくっつくと汚れちゃうよ…」
「いいよ汚しても。布団も翼も服も、汚してもいいから気にしないで」
「でも、」
「それより動けるようになったら早く俺のこと突き飛ばして。それまでちゃんと我慢するから」

リオンからはまだ荒い息遣いが聞こえてくる。リオンもわたしと一緒で苦しいんだ。でも、突き飛ばすなんてできないんだけどなあ。

「わかったよ」

リオンはわたし首に顔を埋めて、何度も奥歯をギリギリ鳴らしている。苦しいのか、噛み付きたいのか。リオンとの共同生活は難しい。

「リオン…いつもごめんね」
「何言ってるの、俺があんたのこと好きすぎてこうなってるだけなんだから、あんたが謝る必要ないんだよ」

それにさ、とリオンはわたしの頭をそっと撫でる。

「こういうときはごめんよりありがとう、なんだろ?俺も、こんな怖い思いさせてるのに好きでいさせてくれてありがとうね」
「リオン…」
「大好き。本当に大好きだよ、名前」

リオンの顔は見れないけど、穏やかな表情ではないはず。歯を鳴らしながら荒い呼吸を繰り返して、きっと苦しい中こんなことを言ってくれる。本当にこのひとは、いつもわたしを喜ばせてくれるしひたすら真っ直ぐ愛してくれるなあ。嬉しくて少しだけ口許を緩ませると、リオンも小さく笑ってくれたような気がした。

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いつも通りオチは特にありません。
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