「うっひょお!雨すげぇね!!!」

今日は近年稀に見る大雨の日だと、今朝の天気予報が告げていた。
大体の人はそんな予報を聞いただけで溜息が出るものだが、私の隣にいる彼は違ったようだ。

「・・・十四松君は何でそんなに楽しそうなの?」
「雨って楽しくない!?俺だけっ!?傘持って〜・・・そう!やきう!!!!」
「結局野球じゃん!!」

雨の日以外でも実は元気な彼は松野十四松くん。この学校ではちょっとした有名人である。
なぜかというと、彼の家庭はなんと兄弟が6人。こんだけの兄弟の多さも珍しいのに、その上なんとその兄弟は全員同じ顔。六つ子なのである。
そりゃ名物にもなる。

うちの学校はクラスが4クラスしかないため、どうしても6人の中の二人は同じクラスに被ってしまう。
生憎、彼、十四松くんは末っ子のトド松君と被っている。ちなみに十四松君は上から5番目。五男である。

私はそんな十四松君の隣の席に座っている。
元々、彼は元気だなぁ、と思うだけだったけど、実際近くなって見ていると、周りの事を良く見ていてくれてたり、気が利いたり、案外兄弟思いでやさしい子だったり。
と、新しい発見をすることができた。

出来たと同時に、そんな彼に気付いたら惹かれていた。

そんな中の今日の生憎の天気である。
彼の単純思考もとい、プラス思考は見習いたいレベル。

「ねぇねぇ!ちょっと!」
そう彼が声をかけてきた。
「聞いてて!」
何事かと振り返ると、彼は教室の窓を思い切り開けていた。
「ちょっとちょっと!十四松君!さすがに寒いよ〜・・・」
「外の!雨の音聞こえる!?」
まぁ、いやでも聞こえてくる程の雨量だったので何を・・・と思っていた。
「雨の音!大きすぎて!大きい声で話さないと!何言ってるか!わっかんないね!!」
確かに。いつもとおんなじ声じゃ何も聞こえない。
「ほんとだね!!」
「こんな雨じゃ今日はやきうできないね・・・!」
「そうだね!こんな雨で!野球したら!風邪引いちゃうもんね!残念だね!」
そんなやり取りをしてると、トド松君が、「兄さん、寒くてみんなが風邪引いちゃうよ。」とやさしく声をかけてきてくれた。あははー!そうっすね!と笑いながら、十四松君は窓を閉めた。

放課後。
野球部はもちろん、野外活動の部活は本日全て中止になった。
残念そうに落ち込む十四松君に、一緒に帰ろうと誘ってみたら喜んでOKしてくれた。
今日はいい日だ。

「君とこうして帰るのも久々だねぇ!」
「そうだね!」
「・・・ね?雨の日もいい事あるでしょ?」
最後が雨の音で、どうしても聞き取れなかった。
「え?今なんて!?」
「めっちゃ寒いね!!!」
「そうだね!!」
どこもかしこもこの大雨のせいで水溜りだらけである。
おかげさまで靴も靴下もびしょぬれで体がとても冷えている。
まぁでも、それのおかげでこうして一緒に二人でいられてよかったと喜ぶ他ない。ありがとう大雨よ。
と、感激に震えていたら、突然頬に暖かいものが触れた。
何事かと正面を向くと、今まで横に並んで歩いていた十四松君が目の前に立っている。
目の前の十四松君から私の方向に、手が伸びている。これは某漫画の、人類を超えた長さではなく、ごく普通の人間の長さでこちらに。
とりあえず、暖かい頬を押さえると、そこには手が。
そう、十四松君の手が私の頬に伸びていた。
そう意識した途端、頬だけではなく全身が温かく、いや熱くなった。
「じゅ、十四松さん!?」
「・・・はい。何でしょう。」
この状況を理解できない私は、挙動不審を隠せないでいる。
「このっ、このお手手はいかがされたのでしょうか?!」
「君が・・・寒そうにしてたからつい・・・。」
彼にして珍しく声が小さい。
必死にその声を聞き取ろうと心を落ち着かせて。耳を澄ます。
「僕の手、あったかい?」
そういう十四松君の顔をよく見ると、少し恥ずかしげにこちらの様子を伺っているように見える。
いったいこれはどういう状況なのか。
「あ・・・暖かい・・・です・・・。」
そのままの通りの感想を述べた。
その言葉に十四松君が安心したのか、顔が太陽のようなとても明るい笑顔に変わる。
ああ、この笑顔、
「・・・・すき。」
・・・えっ。
「えっ。」
私がそう思うのと同時に十四松君が言葉をこぼす。
あれ、もしかして今の口から出ちゃって・・・
「いま・・・なんて・・・?」
「なな、なんでもないよっ!!!!!気にしないで!!」
折角暖めてくれていた彼の手から思い切り離れる。ついでにこの場からも離れてしまいたい!
少し距離を置こうと数歩離れようとしたところを、離した手に捕まる。
「ね・・・もういっかい。」
そのまま捕まった手に引かれ、彼の腕の中へ。
もう、訳が分からない。突然すぎてもう私はキャパオーバーで目が回りそう。
腕の中に抱きすくめられ、十四松君の顔が肩の上に乗る。
「雨でよく聞こえなかったから、このままもう一回聞かせて?」
顔に血が上る。えぇい、どうにでもなれ。
「・・・十四松君が、すき。」
とうとう言った。まさか、こんな形で告白する事になろうとは。
「ぼくもすき。きみのことが。」
「えっ?」
何を言われたか理解できず返答に困っていると、そっと抱きしめた腕を解き、離れた。
「僕は!!!君の事が!!!だいっっすきです!!!!!」
この大雨の中、雨の音に負けじと大きな声で叫んでいる。
息を呑む。彼は今なんて。
「まだ聞こえない!!??僕の声!!!!!君が!!!好き!!!!」
彼が、十四松君が、私のこと
「す、き・・・」
「なんてーーー!!!」
理解した、が、信じられない。こんな事があっていいのだろうか。
「わ、わたしも!!!十四松くんのことが!!!!すき!!!!!!」
雨の音にも、彼の声にも負けないように精一杯の声でこたえる。
心臓の音がうるさい。
「わっはー!!!!」
十四松君が思いっきり跳ねてジャンプする。
「もしかして!!これって!!両思いってやつっすか!?!?」
「両思い・・・!そうだね!!」
そう聞いてまた十四松君はさらに高くジャンプする。
そのまま宇宙まで飛んで言ってしまいそう。
「すっげー!うれしいっす!!!!感動!!感激!!」
体全体で喜びを表現する。そんな姿もまたかわいい。
「私も、うれしいな!」
「僕も!!」
そういって彼は私の手を握った。
「不束者ですが、どうぞよろしくです!!」
「こちらこそ!」
ふたりで深々とお辞儀して、起き上がって。
顔を合わせて、おかしくてつい笑ってしまった。
そんなことをやっていたら、いつの間にかに雨は小雨になっていて、少し晴れ間も覗き始めた。
「雨やみ始めたね!」
「そうだね!」
「僕の声、しっかり聞こえる?」

ちゃんと聞こえる。私の好きな人の好きな声。
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