報告に来たついでにおやつをあげたらすっかり居座っている乱に、ねえ、と声を掛ける。
「乱もおばけが怖いの?」
花丸を見始めてから各本丸によって刀剣男士の個体差はばかにならないと実感しているので一応聞いてみる。いつも通り頬に手を添えて「怖いに決まってるじゃん!」と言ってきそうな気もするし、けろっとした顔で「おばけなんか信じてるの?」と言ってきそうな気もする。ドキドキしながら乱を眺めていると、乱はクスッと笑ってから体を起こした。
「主さんは怖いの?」
は、鼻で笑われた…。これだから個体差はばかにできない。この本丸の乱は普段から可愛い容姿に似合わずどちらかと言えば挑戦的な態度をとってくる。こうしてにやにや笑いながらわたしを眺めるのだってもはや日常茶飯事になっていた。
「…だよね。うちの乱に怖いものなんてない気がする」
「怖いものくらいあるよ〜!ただおばけはどうってことないだけ」
「あ、あるの?」
「主さんは僕を何だと思ってるわけ…」
乱は呆れたように笑ってからわたしの髪を一束掴んでそこへ唇を寄せる。そのまま視線だけをこちらに寄越し、真剣な目付きでわたしを射抜いた。
「こうして主さんに触れられなくなる日が来るのは怖いよ。勿論そんなこと想像したくないけど、僕達は安全が約束された状況にあるとは言えないでしょ。それに主さんだって人間だし、いつかは命に終わりが来る。僕は、それが一番怖い」
わかった?と乱が小首を傾げる。な、何だ何だいつもの乱らしくない。案外まともなこと考えてる、というか、こんなこと思ったら失礼だけど、乱なら躱してくるかと思ったのに。
「意外、だなぁ…」
「意外?」
「う、うん。乱がわたしにそんなこと思ってくれてるなんて」
笑って流そうかと思ったのに乱はふっと口許を緩ませると、わたしの手に自分の手を重ねた。可愛い顔に似合わずわりと大きな掌で、他の刀剣に比べたら綺麗な指をしているけど女性というにしては骨張っていすぎる。
「僕がこんなこと思ってたら可笑しい?」
乱の声がぐっと色っぽくなる。声を潜めるように囁かれた言葉を理解する前に今度は指を絡め取られ、伏せ目がちに視線を寄越された。耳に掛かる長い髪も艶やかで、息をするのも忘れそうだった。乱の手つきがいやらしい。
「いつも、こうして触れたいと思ってる。手だけじゃない、その頬も、唇も、体も…触れてみたいよ。僕の指や唇で触れて、主さんが感じてくれたら、生きてるんだなあって感じられるでしょ?」
「み、乱、」
「主さんが僕に反応を返してくれる限り、僕に怖いものはないよ。そうやって顔を赤くさせたり、僕の言葉で困ったりしてる表情も、僕のせいなんだもんね」
乱の指がつつぅと手首の方をなぞっていって、袖口から指を入れてきた。ぞわっと背筋を震わせると乱が小さく笑う。
「主さん……もっと僕を感じて、僕を安心させてよ」
「そ、そんな、でも、」
乱がわたしの体にぐっと力を入れて体勢を崩させる。背中が畳についたと思えば、乱がわたしに覆い被さっていた。
「みだ、」
「主さん」
乱の長い指がわたしの唇にとんと触れる。
「僕と乱れよう…?」
--------------------
この後「なーんちゃって、びっくりした!?あははは!」と笑いながら体を起こしてくれると思いますが、100%本心だと思います。
(
戻 )