最近喉の調子が悪いなあ。

「けほ…」

喉奥が引っかかる感覚がして空咳のようなものが止まらなくなることがある。季節の変わり目なんだから油断しないでよね、とあれだけ清光に言われていたのにすっかり忘れて薄着で寝てしまったからに違いないけど、それを清光にバレたらほら見たことかと何を言われるか分からないから今日は洗濯係を押し付けた。清光が隣に居ないと、暇だなあ。

「けほ、コホコホ、げっ、ほ……」

咳が続くとどうしても苦しくて前屈みになる。そのとき、わたしの部屋の襖が何の声掛けもなく急にスターンと開かれた。びっくりして思わず咳も止まる。

「主!?」
「へ…」

顔を上げると焦った表情の安定と目が合う。開ける前に一言言いなさいよ。わたしが口を開く前に安定はずんずんこちらに歩みを進め、わたしの目の前でしゃがんだ。

「大丈夫?」
「なにが、っ」

焦った顔をしてるからこっちも焦って早く言葉を返そうとしたら、勢いよく冷たい空気を吸い込んだことでまた咳が出る。げほっ、けほ、と2度3度咳をしてから、ごめんね、と顔を上げると、安定の顔は真っ青だった。

「沖田くん…っ」
「へ、」
「何で僕に黙ってたの!?」
「何を、ですか…」

思わず敬語。すごい勢いで肩を掴まれて、その力の入れ具合が本気だった。安定はわたしを睨み付けるように眉を寄せる。

「その咳だよ!病気なら無理しないで休めばいいのに、何で一言も言ってくれなかったの!?」
「び、病気?」
「まだ隠す気?本当に怒るよ」
「えーっと…」

安定の、怒りでいっぱいです、というようなギラついた目が、少しずつ濡れてくる。ぎょっとして言い訳を考えるけど安定の目にはどんどん涙の膜が張っていった。

「やだよ…」
「えっ」
「僕を置いていかないで、無理しないでいいから、もう、もう僕を置いていかないでよ…っ」
「安定?」
「何でいつもそうなの…僕が好いてるものを、奪わないでよ…っ」

安定は誰に言ってるのか分からないことを吐きながら静かに顔を伏せた。肩が震えていて、泣いちゃったのかなあ。慌てて安定の袖を掴むと、安定は自分の顔を隠すようにわたしを抱き寄せた。

「う、わあ」

急に腕の中に閉じ込めるものだから変な声が出る。それでも安定は何も言わず、ただわたしの耳元で濡れたような吐息を漏らした。泣いてる、よね。

「あのー…、安定」
「…なに」
「えっと、な、泣かないで…?」
「泣いてない」

ぐす、と鼻をすする音が聞こえて、やっぱ泣いてるじゃんなんて言えなかった。そういえばさっき、沖田くんとか何とか言ってたっけなあ。

「安定、落ち着いて。わたしのはね、病気じゃないの」
「どういうこと…?」
「えっとだから、清光には内緒にしててほしいんだけど…、ただの風邪」
「…」
「えへへ、だから、ね、泣かないで、ただの風邪だよ〜」

しばらく安定から言葉は返ってこなかったけど、ゆっくり体を離された。安定の鼻の頭が僅かに赤い。

「…本当にただの風邪?」
「うん、ただの風邪」
「…」
「や、安定?」

安定は目を合わせてくれない。不安になって名前を呼ぶと、安定は勢いよく立ち上がった。びっくりして、うおっ、なんて声が出る。

「じゃあ、じゃあ…っ、もっと早く言ってよ!!」
「えっ」

安定の顔が真っ赤だった。あ、あぁそういうこと、勘違いが恥ずかしかったのかな。可愛いなあなんて思って口許を緩ませたら、安定はキッとわたしを睨んでからそのまま部屋を出ていった。うーん、扱いが難しい。でも安定とは特別仲良しだとは思ってなかったけど、泣いてくれるくらいにはわたしのこと想ってくれてるんだなあ。

「可愛いなあ安定は…」

愛おしくて呟くと、その30秒後には清光が部屋に来てわたしにくどくど説教を繰り広げた上に薬研のところに連れてかれて苦い薬を飲まされた。あいつめ、バラしやがったな。
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沖田組は咳に敏感そう。
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