「おっかしいなあ…」

きょろきょろ本丸を探し回ってるのになかなか見つからない。いつもふらっとどっか行ってしまうからどこに籠ってるのか分からなかった。清光の居場所なら一発で分かるのに、やっぱりわたしは清光以外の刀剣とももっと親しくなるべきだよね。最も、清光がそれを許してくれるなら、だけど。

「ねえ、薬研見なかった?」

向こう側の廊下から歩いてきた乱ちゃんと厚くんに声を掛ける。ふたりともふるふる首を振るだけで、そっかぁ、薬研は兄弟に混ざって遊ばないんだなあ、なんてちょっと寂しくも感じた。

「もしかしたら手入れ室を手伝ってるんじゃない?朝一で出陣した部隊がさっき帰ってきてたでしょ?」
「あ、そうかも」

白衣がとてもよく似合う薬研を思い出して、ふたりにお礼を言った。俺達も手伝おうか、なんて言ってきてくれるけどそんな大袈裟な用事でもないから断る。早足で手入れ室へ向かうと、ちょうどいいタイミングで手入れ室を出てきた薬研に遭遇した。

「あ、薬研!」

嬉しくて駆け寄ると、薬研は手袋をはめ直しながらわたしに気づく。

「よぉ大将、何か用か?」
「うん、ちょっと相談があってね。それより薬研、手入れ手伝ってくれてたんだね。ありがとう」
「礼を言われるほどのことじゃない、得意分野だから見てやっただけだ」

ふっと微笑まれると薬研がお兄ちゃんである弟達が少し羨ましく感じる。日頃思ってたけどこの大人びた笑い方は一期一振にそっくりだ。

「薬研は頼りになるねぇ」
「そう思うんだったらもっと俺っちを頼ってくれや。何か相談事があるんだったか?」
「う、うん。そうだ薬研、昨日の遠征はどうだった?」
「たーいしょ」

薬研がわたしの顔を覗き込む。う、と短く言葉を切ると、薬研がやれやれといった表情でわたしを見上げた。

「話しにくいことなら場所を変えるか?」
「う、ううん…ここで大丈夫なんだけど、その、ね…」
「歯切れが悪いな」

薬研はわたしに背を向けて歩き出すと、縁側に腰を下ろした。とんとんと隣を軽く叩いて見せる。わたしは素直に薬研の隣に腰を下ろすと、視線を下に落として手遊びを始めた。

「あ、あのさ、わたし変なのかもしれないけど、聞いてくれる?」
「何だ?」
「花丸を見てるとね、安定にちょっぴりヤキモチ妬いちゃうっていうか……ほら、清光と相棒みたいになってるでしょ?入る隙がないくらい仲良しで、でも安定にまで妬くのって、心狭いよね……」
「んー、刀剣とは言え肉体を持ったからな、ヤキモチが変だとは言わないが、一応同性だぞ?」
「分かってる、だからおかしいかなって思って」

恥ずかしくて薬研の方が見られない。

「大将も欲張りだな、うちの本丸ではあんなに愛されてるってのに。他の本丸でも独り占めしたいのか?」
「えっ、だっ、だめかな…っ」
「いや素直でいいんじゃねえか。羨ましいねぇ」

冷やかすように言うから余計恥ずかしくなってきて、こんなバカみたいなこと言うのが恥ずかしくなってくる。でも言わないと。

「それでね、独占欲を抑えられる薬とか……ないかな」

ごく、と喉を鳴らすと、薬研は一瞬きょとんとしてから笑い、眼鏡を持ち上げた。その仕草も大人びている。

「生憎だが大将、人の心ってもんは薬でどうこう調合できるもんじゃないな」
「そ、そっか!」

当たり前の答えに顔から火が出そうだった。分かってたけど、でも、もしかしたら薬研ならなんて期待を抱いちゃったのが恥ずかしい。薬研が何か言葉を繋げようとしてたけど恥ずかしさが勝って何も聞きたくなかった。

「ああっとそうだ!薬研明日遠征頼んでもいいかな!?」
「明日か?今度はどこに行くんだ?」
「え、それはその…あとでまた伝えるね…」

横髪を耳に掛け、落ち着きなく視線を揺らす。何か話題を変えなきゃ、話題、話題。

「そ、そうだぁ、花丸では木に願い事を吊るしてたでしょ?う、うちでも、しよっかなあ」
「はは、そいつは名案だ。大将の願いも叶えばいいな」
「薬研は!どんなこと書きたい?」

話を蒸し返されそうで慌てて質問して返したけどもう会話を続けるより一目散に逃げてしまいたかった。恥ずかしくて薬研の顔が見られないし、こんな恥ずかしいのが自分の主なんて思いたくないだろうし、もう居ても立っても居られなくて勢いよく立ち上がる。薬研が驚いたようにわたしを見上げた。

「や、やっぱりわたし、部屋に戻るね」
「…あぁ」

薬研は引き止めないでいてくれた。そそくさと廊下を小走りに戻っていくけど、どう思われたかなんて分からない。その日は何となく気まずくて、残された薬研が何を言っていたかなんて想像もできなかった。
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「俺はあんたを独占したいよ、大将」なんて呟いてたら切なさで心臓が破けます。うちの本丸では薬研がなかなか幸せになれないのは何でですかね…(清光のせい)
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