友達とのお泊まり会なくなっちゃった、なんてついうっかり口を滑らせたばっかりにこうなっているのは分かってるけど、心のどこかで来てくれないかなあと思っている自分もいた。松野くんはわたしの口の中を舐め回してご機嫌そう。

「名前ちゃんは舌が小さいね」

小さいか大きいかなんて自分ではよく分からない。そんなことより松野くんがわたしの家に突然来てくれたのが嬉しかった。松野くんがわたしの舌を舐めながら背中に手を回して玄関の鍵を掛け、わたしはそのガチャンと冷たく不必要に大きい音に思わずビクッと肩を跳ねさせる。

「まつの、くん」
「ほら、入れてよ。玄関でシたくないでしょ?」

ああ、やっぱり。
胸が抉られるようだった。松野くんがわたしに会いに来る理由はひとつしかない。それでもわたしは松野くんが好きだから大丈夫、耐えられると思っているけど、それがいつまでもつかは分からない。

「松野くん、あのね、部屋が散らかってて…」
「いーよ、俺気にしないし」
「で、でも」
「他のひと泊める予定だったんでしょ?じゃあ俺が泊まっても問題ないじゃん」

そう言われると、うん、としか言えなくなる。松野くんはぐいぐい来るから口が下手なわたしは強く拒絶出来ないまま流されてばっかり。ほんとはもうやめたいって、えっちだけの関係なんか嫌だって、言いたいんだけど、伝えるのが怖くて言えない。松野くんを中に招き入れると、早速というように松野くんがベッドへ座った。隣を軽く叩いてわたしを見上げる。

「ほら、名前ちゃんも座りなよ」

わたしの家なんだけどね。どうしようか少し迷ったけど、そんなところを拒否してもまたすぐに丸め込まれるのが分かっていたから大人しく隣に座った。松野くんがわたしの頭に手を回して自分の方へ引き寄せる。

「へえ?」

何ともみっともない声が出た。松野くんが自分の肩にわたしの頭をくっつせさせているからだ。松野くんはたまに甘えてくるときがあるけど、今日のは別、甘えさせるような行為をとったことは一度もなかったからびっくりして目をひん剥いた。松野くんには見られていない。

「ま、松野くん?」
「こうすると寂しくないでしょ!」

あは、と笑う松野くん。何が何だかさっぱり分からない。急に暴れ出す心臓が煩くて、松野くんに聞こえてないか心配になった。松野くんは、よしよしってわたしの頭を撫でる。

「約束すっぽかされると寂しいよなぁ、俺なんて弟達にしょっちゅうされるし」
「そう、なんだ」
「うん。ま、俺もするけど!なはは」

なるほど、自分はされて寂しいからわたしを慰めてくれてるんだ、びっくりした。松野くんは気分屋さんだからたまにびっくりすることを平気でやるけど、こういう優しいのは勘違いして期待するからやめてほしいなあ…。でも頭を撫でる手が優しくてすごく幸せ。嬉しくて松野くんの肩に顔を寄せると、松野くんは黙って頭を撫でてくれた。心地好い暖かさ、一定のスピード、わたしよりちょっと大きい松野くんの手のひら。ああ好きだなぁ、としみじみ思っていると、松野くんは手を動かしたまま言葉を落とす。

「名前ちゃんって、俺とスるの好き?」

えっ、と口から漏れた気もするし堪えられたような気もする。分かんない。思わず松野くんから離れて顔を見ると、松野くんもわたしから手を離してしまった。あーあ、頭、気持ち良かったのに。

「好き?」
「っ、なんで」
「いや何となく。何で俺とシてくれてんのかな〜って思ってさ。ほんとは嫌なんじゃないの?」
「え、えっと…それは…」

言葉に困った。確かに毎回この関係はやめようと言おうとはしているし、だからこそ行為をする前は多少嫌がった素振りも見せる。でも松野くんはいつもわたしの口を封じながら愛撫を進めてしまうからもうどうでもよくなって頭の中も真っ白になって、気づいたら終わってる。わざわざ松野くんからこうして聞いてきてくれることもないし、きっと今ちゃんと拒否すれば松野くんはやめてくれるはず。でも、それを告げてしまってもし一生話せなくなったらどうしよう、なんて未練がましい理由で言葉が出せないままでいる。

「ねえ、名前ちゃんはさ、寂しいから俺と寝てるの?」

松野くんが少し苦しそうに笑った。どうしてそんな顔するんだろう、わたしには理解できなくて困る。寂しいわけじゃない。大好きな松野くんが望むことに応えたいだけで、それがこういう形になっちゃっただけで、そこにわたしの気持ちは何もなくて、でも松野くんは誤解してる。

「ちが、」

やっと口を開いたわたしの手首を、松野くんが力強く握った。そのままぐいっと引き上げられ、ベッドに押し倒される。松野くんは苦しそうに笑ったまま。

「やっぱ、やめとく」
「え…?」
「このままシよ」

わけが分からないまま松野くんの唇がわたしのに重なった。自分から訊いてきたくせに勝手にやめるなんて、と思ったけど、口内に熱を擦り付けられるようなキスをされたらもうどうでもよくなる。熱を分け与えるような、唾液を混ぜるような、深いキス。舌が熱くてぬるぬるしてて、それで粘膜を擦られると気持ちよくてたまらない。

「ふっ…んん、ぅ」
「は…」

ああ、また今日も言えなかった。

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