「うわ」

ピンポーンと可愛らしい音に呼ばれドアスコープを覗くと、外には松野カラ松が立っていた。背中に隠してあるであろうバラの花束が腰の辺りからはみ出ている。期待していたわけではないが、予感的中といったところだ。カラ松はいつもキザなことをしたがるからだ。

「はい、どちら様でしょうか」
「キュートな瞳を拝みに来たぜ、マイスイート」

しれっと訊ねたわたしに日本語とは思えない答が返ってきた。カラ松とは母国語が違うのではないかと思っている。渋々ドアのロックを外すと、カラ松はドアが開くと同時にわたしにバラの花束を差し出してきた。

「誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう…」

思ったより大きい花束だった。




カラ松はいつも以上にダメージの入ったジーパンを穿いていたが敢えて突っ込まず、わたしはお茶を入れてカラ松の座るソファへ向かう。

「なあ、今日は誰かと会ったのか?」
「そりゃあ外にも出たし人とも会うよ、カラ松じゃないんだから」
「そ、そうか。それじゃあ友達に祝ってもらったか?プレゼントは?」
「まあそれなりに貰ったよ」
「そうか!」

目の前のローテーブルへお茶を置き、カラ松の隣へ座った。カラ松の目が輝いている。

「何でそんなに嬉しそうなの?」
「フッ…数々のプレゼントの中でこの俺が一番のプレゼントを渡してしまうからさ…」
「一番?バラが?」

花なんかとは思っていないしプレゼントに優劣つけるつもりもないが、この男は何を言い出すのだと目を細める。カラ松は得意気に前髪を撫でると、その指をパチンと鳴らす。

「そう!この俺がプレゼントさ!」

い、イタイ〜〜。思わず口に出しそうになり慌てて口を閉じた。この男は本当にぶっとんでいる。今時自分をプレゼントにする彼氏がどこにいるかと頭を抱えたい衝動に駆られた。聞いているこちらが恥ずかしい。

「ありがとう、でも大丈夫」
「遠慮は要らないぜ…一匹狼の俺はもういない、何故ならお前が隣にいることになるからな」
「あのごめん、本当に大丈夫」
「フッ…恥ずかしがり屋だな」

カラ松は室内では不自然なサングラスをやっと取り、わたしにウインクを決めてきた。アイドルにでもなったつもりなのだろうか。これ以上イタイことをされ続けたらこちらの体が持たないので顔を背けようとすると、カラ松が急にわたしの顎を持ってそれを制する。強引に彼の方を向かされて少しドキッとした。

「なあ、いいだろ?」

普段よりワントーン低い声を出される。鼓膜に直接響くような低音。その余韻を遮るように、カラ松の唇が押し付けられた。

「ん、ぅ」

いつものようながっついたキスではなく、唇を唇で愛撫するような丁寧なキス。角度を変えて何度も何度も啄む。カラ松の大きい手がわたしの頬を撫で、下唇を優しく吸われる。柔らかい感触と繰り返される愛撫にわたしはすっかり体の力を抜き、ソファに体重を預けた。顎をくいっと引かれ、その拍子にできた隙間に舌を挿入される。

「は、んん、」

熱を帯びたそれがわたしの口腔を混ぜる。舌や口内の粘膜をねっとり這われ、舌同士が擦れ合う度に僅かな水音が聴こえた。カラ松がわたしの手を握り、何度も舌を擦り合う。

「ん、あぅ」

舌を吸引されて引っ張り出されるとそれをまた唇で包み舌の先端を舐めて遊ばれた。これに弱いわたしはくらくらと体が甘く痺れ、まあ流されてもいいか、なんて思いながら必死にカラ松の愛撫に応える。気持ちいい。

「んちゅ、ふ、ふは…」

カラ松はわたしの唾液を舐めとりながら、リップ音を立てて唇を離す。どちらか分からない唾液で濡れたカラ松の唇がてらてらと光っていてやけに厭らしい。カラ松はいつものようにふにゃっと優しく微笑むと、わたしの手を持ち上げて甲にキスを落とした。

「これからもずっと宜しくな」
「は、え…」

ちゅっとキスされた手を見つめると、薬指に指輪が光っていた。指輪。薬指に指輪って、ええっと、わたしの記憶でいくと確か…。

「ええーーーっ!?」
「驚いたか?」

カラ松があまりにも嬉しそうに笑うからじわじわと顔が熱くなった。この男、本当に…。

「ど、どういう、」
「俺がプレゼントだって言っただろ?」
「こういう意味じゃないと思って、」
「不満なのか?」
「い、いや、そういうわけでもないんだけど、」

カラ松は照れ臭そうにわたしの頭を撫でると、よかった、と小さく漏らした。心臓が誰かに掴まれたようにぎゅんってする。

「愛してる、名前」
「は、はい」
「これから先一生離れないぜ」
「うん」

ちゅ、とおでこにキスをされ、まるで誓いのキスみたいだな、とうっとりした。カラ松はわたしの肩に両手を添える。

「二人で人生の歯車を回していこう」
「一言余計なんですけど!」

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