初日ってやっぱり慣れないもんかな?授業ってめんどくさい。冥界の仕事に比べたらまだマシかもしれないけど、あ、いや、どっちもどっちかぁ。ぺらぺら喋る教師がたまに俺の方見て何か言ってる。けど俺眠すぎてそれどころじゃない。

「こら、閻魔」
「ったぁ!」

うとうとしてたら教科書で頭叩かれた。いったー、何すんの。鬼男くんに比べたら全っ然マシだけど、人間の分際で俺に手ぇ上げるとか考えられない。でも今の俺は“人間”なんだからこういう環境にも慣れなきゃだめなんだよね。
ひりひりする頭を撫でてみた。痛み、なかなか消えない。下界だとそうなのかな。もしかして俺、下界にいる間は本当に“人間”になれるのかな。そんなこと思ってたらクスクス笑い声が聞こえてきた。隣の席の、えーっと、うさ美ちゃん。何で笑ってんの。

「…なに」
「閻魔くんはいつもそうね」
「だってこの話眠くなるんだもん」

不機嫌そうな俺をますます笑うそいつ。いつもってゆーか、今日初日なんですけど。俺が作った設定だから仕方ないけどさ。俺は愛想笑いを返してからまた寝る準備をした。





キーンコーンカーンコーン…

あ、チャイムだ。やっと授業終わり。あー、人間って疲れるー。ぐぐっと背伸びしたら号令がかかって、眠くなる授業をしていた教師はさっさと教室を出ていった。なんて苦痛な時間だったんだろう。

「おい閻魔ー!移動教室行くぞー!」

何それ。
さっき友達になった(俺が学校に来たら友達設定になってた)太子が俺のことを手招きしてた。移動教室?なぁにそのめんどくさい設定は?

「移動教室って、」
「数学演習室に行くんだぞ、教科書持て」
「数学演習室?」
「早く行くでおま!」

わけが分からない。太子、言葉が足りない。俺はとりあえず数学の教科書とノートを持って太子についていくことにした。

廊下を歩いていると、太子が急に昨日の晩御飯について喋りはじめた。

「閻魔はカレーは何口が好きなんだ?」
「えーと、」
「私は辛口だなー!カレーなだけに、辛え!」
「…」
「でもひどいんだぞー、妹子は私のカレーにはじゃがいもを入れてくれないんだ」

妹子って誰。やばい、太子きっとばかだ。言葉が足りない。話してて疲れるなー、もっといい人いないのかな。そんなことを思っていたら太子が興奮して手をつけて話し出す。どんだけカレー好きなんだろう。

「やっぱりカレーにはツナだな、ツナ!」
「はぁ」

階段を降りるとき、ツナについて話題を変えた太子が大きく手を動かす。ツナを語るだけなのに何でそんなに興奮してるの。冷静にツッコもうかと思ったら、そのとき。

「っきゃ…!」

太子の手が女の子に当たってしまい、2つ結びの女の子が階段から落ちそうになるのが見えた。俺は反射的にその女の子を助けようと手を伸ばす。“人間”はこんなに速い動きできないんだろうけど、今はそんなの気にしてられない。その子の二の腕を強引に掴んで俺の方に引き寄せたら、女の子は俺の胸にすっぽり収まった。セーフ。女の子は暫くフリーズしてたけど、自分が無事なことに気づいて顔を上げる。

「…あれ?」

女の子はきょとん、と俺を見上げた。俺も思わずあれ?って言いそうになった。綺麗な髪だなーとは思ったけど、まさかその女の子が俺の大好きな名前ちゃんだとは思わなかったから。朝髪結んでなかったじゃん。

「あの、?」

名前ちゃんは小首を傾げて見せた。何この動物、可愛い。

「怪我はない?」

俺はにこっと笑って名前ちゃんの体を離す。名前ちゃんはやっと状況を理解したようにカァッと赤面した。あー、やっぱり可愛い。

「あっ、え?あれっ?」
「ん?どっか痛いの?」
「い、いえ!大丈夫です!助けてくれた、ん、ですよね?あ、ありがとうございました!」

俺にくっついてたのが余程恥ずかしかったのか、すごい距離をとられた。ちょっと寂しいけど赤面が可愛いから我慢。名前ちゃんはぺこりとお辞儀する。かーわいい。

「ううん、太子がごめんね」
「いえ大丈夫です。それでは」

名前ちゃんは愛想笑いを見せてぱたぱたと小走りで去っていった。名前ちゃんと一緒にいた友達が「閻魔先輩に助けてもらえるなんて羨ましい!」みたいなこと言ってたけど、名前ちゃんは赤面して首を振るだけだった。ほんとに可愛いなー。

「…太子」
「え?」

俺は名前ちゃんを目で追いながら拳を握った。



「どっちの手で名前ちゃんに触ったんだっけ?」
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