閻魔様はとても退屈をしておられました。毎日毎日死人を見て天国か地獄かを判決しなければなりません。それだけではまだ良い方です。死人を天国や地獄へ送る手続きの書類、行った後での管理、それまでもが閻魔様のお仕事なのです。正直、自分でなくても良いのではと閻魔様は思いますが、そうはいきません。閻魔様にしか務まらないお仕事なのです。

「ふー…、疲れた」

ぐぐっと背伸びをします。閻魔様は今日もせっせと働きました。今は夜の8時半。夜の10時までお仕事をしなければならないのですが働きすぎると閻魔様の方がだめになってしまいますから、定期的に休憩が挟まれます。夕食を食べて満腹の閻魔様は、夜の見回りへ出かけました。判決を下すお仕事は9時から再開ですから、それまでに見回りを済ませなければいけないのです。今回は休憩を長くとりすぎてしまったので、閻魔様は急ぎ足でした。30分で見回り終わるかな、また鬼男くんに怒られちゃう。そう思いながらも閻魔様はご機嫌でした。今夜のおかずは大好きなハンバーグだったからです。

「やあ皆、ちゃんとやってる?」

見回りと言っても天国にはさほど問題は起きませんから、閻魔様が巡回するのは専ら地獄だけです。今回は針山に顔を出しました。罪人達は閻魔様の声など聞いていません。

「う、ぐぁああ…っ」
「はは、痛そー。命守るのに必死で俺の声なんか聞いてないかー」
「ぎゃああぁああ!」
「…おっと、命はもうないんだっけ」

閻魔様は愉しげに眺めながら独り言を漏らしました。針に刺さった罪人達はとても苦しそうです。手前の男は太ももを太い針が貫通していますが死ねません。どくどくと長時間かけて血はたくさん出ているはずなのに命がないから死ねないのです。死ぬことができたらどれほど楽だろう。男はそう思いながら針から太ももを庇うように手を伸ばしましたが、バランスを崩して今度は頭、脇腹、ふくらはぎと左半身全般を針で刺してしまいました。刹那、耳にくる悲鳴。閻魔様はふふっと笑いました。

「俺に殺してくださいって土下座してみれば?靴でも舐めたら殺してあげるかもよ」
「あっぐ…、ぅあああああ!」
「…聞こえてないかぁ」

閻魔様は嘲笑うように男を眺め、それから男の脇腹を蹴りました。その衝撃で男の体にはますます針が刺さります。体の奥に進む鋭いそれは皮膚を引き千切り、男の体に大きな穴を開けました。それでも男は悲鳴を上げるだけで痛みから解放されることはないのです。

「ぎぃああぁああ!」
「うん、今日も平和!毎日平和で俺嬉しいなー!勿論、反乱を起こす余裕ができるほど優しい拷問なんかないんだけど」
「あ゙っ…が、ぁああ…っ」
「うーんいい顔。もっと痛がってね、俺の分まで」

閻魔様は先ほどまでにこにこと楽しそうに細められていた目を少しだけ開きました。鋭い双眼がぎろりと妖しく光ります。その目は何故か人の血を連想させるように赤黒く、男は苦痛に身を捩りながらぼんやりそれを眺めていました。

「さて、閻魔庁に戻らなきゃ」

鬼男くんに怒られちゃう、と閻魔様は男に背を向けました。男の悲鳴を名残惜しむようにゆっくりと、それでもしっかりとした足取りで閻魔様は閻魔庁へ戻ろうとします。最後に一言を吐き出して。



「…俺と代わってよ」
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