コンコン、とドアをノックされ、反射的に時計を見上げる。午後11時半。こんな時間に女の子の部屋を訪れるのは非常識極まりない。彼女はムスッと口を尖らせると、少し乱暴にドアを開けた。

「はい?」
「ゔぉぉ…俺だぁ…」

そこに立っていたのはスクアーロ。何に照れているのかは分からないが、情けなさそうに視線を逸らしている。ノックの主が愛しの彼だと分かれば彼女の態度は急変し、彼の顔を覗き込むように距離を縮めた。

「なーんだスクか、どうしたの?」
「……れねぇ」
「え?何?」
「眠れねぇんだぁ…」
「………」

さてこの可愛い彼氏をどうしてくれよう、なんて舌なめずりしそうになった彼女は慌てて笑顔を作り、一先ず彼を部屋の中へ上がらせることにした。




(( 眠れぬ夜 ))




「今日、何かあったの?」

温めてきたミルクを彼の隣のテーブルに置く。熱いよ、と一言添えてから彼と向かい側のソファに腰掛けた。

「特にねえけど…昨日やなもん見たんだぁ」
「やなもん?」
「ただの夢なんだけどなぁ。それで寝付きが悪くなっちまったぁ」

そう言いながらホットミルクに手を伸ばす。こく、と一口口に含んだらビクリと跳ね上がる体。カップを離す彼の目には僅かに涙が溜まっていた。

「あはは、熱いよって言ったじゃん」
「ゔぉぉ…うるせぇ…」

猫舌の彼にはまだまだ熱かったようだ。火傷したであろう舌を出し、空気に触れさせる。フーフーと言いながら眉間に皺を寄せる彼は本当に猫のようだった。

「…どんな夢だった?」

聞いてはいけないことだっただろうか。彼はカップを置くと、気まずそうに視線を床に落とした。暫くの沈黙が続く。言いたくないなら、と口を開こうとした瞬間、彼の方がちょっと早く口を開いた。

「その…お前と喧嘩する夢だぁ…」
「…え、」

意外な言葉だった。あれだけ沈黙するのでもっと重々しい内容を想像していた彼女は拍子抜けだと言うように目を丸くする。

「け、喧嘩?どんな?」
「俺がお前のカップを割っちまってお前がめちゃくちゃ怒鳴ってきてよぉ、1日中口利いてくれなくなっちまったんだぁ」
「…それが怖い夢?」
「そうだぁ。思い出しただけで眠れなくなるぜぇ」

ぶるっと体を震わせた彼。たった1日話せないだけだというのに。

「どんだけ可愛いのあんた…」
「ん゙?」

思わずぐっと拳を握った彼女に、彼はこてんと首を傾げる。そんな仕草もまた可愛い。

「あんた自分何歳だと思ってんの!?もうおっさんでしょ!?何そんな可愛いこと言ってんの!?女子高生ですか!?彼氏に口利いてもらえなくなって鬱病気取りになってる女子高生なんですか!?」
「ゔ、ゔぉぉ…!?」

バンバンとテーブルを叩きながら熱くなる彼女に驚きつつ、自分が言ったことを思い出して顔が熱くなる。確かにいい歳した男が言うことではなかった、と。

「け、けどよぉ…俺は、その……」

ちらっと視線を逸らす。恥ずかしそうに言い訳を考える彼にきゅうんと胸が鳴って、彼女は立ち上がった。彼の目の前に影を作ると、やっと気づいたのか彼女を見上げるが残念なことに上目遣い。彼女の中で何かが切れた音がした。

「スク、何でそんなに可愛いの?おっさんって自覚あるの?」
「ゔぉぉい…!さっきからおっさんおっさん言いやがってぇ…」
「だってスク、意味分かんないくらい可愛いから」

彼の次の言葉を待たずにキスをした。彼の足の間に片膝をついてソファの背もたれに身を沈める彼を追って深く口づける。舌を入れると彼はピクッと体を揺らした。

「ん゙…っ」

普段は聴かない彼の声。うっすら目を開けると、彼はきゅううっと力を入れて目を閉じて眉間に皺を寄せていた。

(そっか、さっき火傷したんだっけ?舌痛いのかな…)

いつもみたいに絡ませるキスではなく、ちろちろと彼の舌を舐めるように舌を動かした。口内で彼のくぐもった声が聴こえる。あまりにも可愛くてちょっと舌を尖らせて強引にぐりぐり擦り付けると、またぴくりと上がる肩。そして、

ガツン!…パリッ

あまりにも大きい音だったので何の音だろうかと顔を上げた。離れた唇から彼の息が熱く吐かれ、少し涙目になっている表情がとても色っぽい。

(…何その顔)

「痛ぇじゃねえかよぉ!」

きっとキスのことを言っているのだろう。それで責められては困る。それに、こちらにはもっと有力なものがあった。
ちら、と先程音がした場所へ視線を送る。彼に見ろと言わんばかりの行動。彼も素直に従って視線を向けて、思わず口を開けた。

「カップ、割れてんだけど」

キスの最中彼女がいじめたのが原因なのだろうが、痛さに驚いた彼の長い脚が隣のテーブルを蹴ってしまい、落ちたカップがパリンというわけだ。彼の顔色がサァッと変わる。

「わ、わりぃ…!」
「はー、最悪。夢の中だけじゃ足りないってわけ」

このカップ気に入ってたのになー、と呟きながら笑いを堪える。彼は慌てて謝罪を重ねてくるがポーカーフェイスで無視。困っている彼はまたたまらなく可愛かった。

「なぁ名前、どうしたらいいんだよぉ…」

今にも泣きそうな声だ。普段部下の前であんなに怒鳴り散らしている彼からこんな弱々しい声が出るなんて誰が予想しただろう。情けないと思うのに母性本能を擽られる。

「許さない。もうスクと口利かないから」

つんとした態度を出せばまたじわりと涙を浮かべる彼。年下の女にからかわれて、これでもあの有名な暗殺部隊の幹部だというのだから可笑しくて堪らない。あまりの慌てように思わず笑ってしまった。

「あーあ、もう。反応面白いから本当に1日くらい口利かないでいようと思ったのに」

笑っちゃったよ、と告げると彼の顔からだんだん緊張が薄れていく。暫く時間をかけてやっと現状を理解したのか、またいつもの彼に戻った。

「ゔぉぉい!からかうんじゃねえ!」
「はー?人のカップ割っといて何言ってんの?ちょっと反省しなさい」
「ゔ、ぉぉい…」

しゅんと肩を下げる。どこまでもからかいがいのあり、そこがまた彼の好きなところの1つだ。

「スクってほんと可愛いよねー、だからベルとかになめられてんのよ」
「うるせぇ…」
「あ、そうそう、スクちゃん眠れないんだっけ?子守唄歌ってあげよっか」
「ゔぉぉい、スクちゃんってなんだぁ!馬鹿にすんなぁ!」
「あーはいはい、可愛い可愛い」

ほらベッド行くよ、と言えば急にカァァッと顔を赤くする。思わず緩みそうになった口元を締めて、ポーカーフェイスで彼の頭を殴った。

「ばか、何期待してんの変態。寝るのよ」
「し、してねえよぉ!」
「どうだか。あ、それとも」

する、と彼の髪を一束手にとりキスをする。顔を上げてにやりと笑うと彼はそんな光景に見入っている様子で。

「期待通りシてあげてもいいけど…?」

ごくりと喉を鳴らしたあと、彼は焦って視線を逸らした。

「べ、別に期待はしてねえけどよぉ…、名前がその気なら…」
「いや、私は素直に寝たいけど」
「………。なら寝ようぜぇ…」

ばっさり断るとショックでふるふると体を震わせている。そんな彼にまた笑いが漏れてしまい。

「ゔぉぉい、またからかってやがったのかあ!?」
「ふふ、ほんと可愛いおっさんだなあって思ってさ」
「おっさんって言うんじゃねぇ!」

怒った振りをしてみるが彼もまんざらでもない様子。慣れとは怖いもので、彼女と付き合い出してから気がつけばもうドMになっていた。認めたくないが否定もできない事実だ。

「仕方ないなあ、眠れないスクに付き合ってセックスしてあげるよ」
「お、女がサラッとそういう単語を出すなぁっ」

また顔を赤くした彼を無視してドサリと押し倒す。そんなことも、彼等にとっては日常茶飯事。

「今日は何ラウンドいこうかなー」

彼女は赤面の彼を見て、我慢できずに舌なめずりをした。


END
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ドMなスクを書きたかったんです。先日久々にアニメを見たらやたらスクが可愛くてドMなスクにムラムラしました。スクは男前だと思っている人はごめんなさい。勿論ベッドの中では男前なはずです、多分。
いつも主人公を可愛く書きたい私ですがたまにはこんな主人公もいいかなと思って書きましたが如何でしょう。理性保っているときはポーカーフェイスですが崩壊したら舌なめずりとかしちゃってスクちゃん可愛いぺろぺろな変態さんになります。
あれ、何で私こんなに語っているんでしょう(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。
20120709
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