マフィア同士の社交辞令だと思っていたパーティーの約束が本物で、つい最近彼はそのパーティーに渋々出席した。彼自身は行きたくなかったのだが、マフィアの夜のパーティーは初めてだった彼女がどうしても行ってみたいと言い張ったからだ。ヴァリアーからは2人が出席し、そのパーティーでもやはりヴァリアーは注目されていたらしく、同盟を組みたいというファミリーが彼の元へ押し寄せた。が、彼はこう一言。

「めんどくせぇ」

鋭い真紅の双眼でギロリと睨まれれば誰もがたじろいだ。そんな中、不敵な笑みを浮かべる女が1人。

「ザンザス様、お目にかかれて光栄です。わたくしミッロマルネファミリーのものです。今後は是非とも親睦を深めたく存じております。今月末ですが…、」

スッと彼の前に出てきたのは艶やかな金髪を揺らす美女。真っ赤なドレスが白い肌に良く似合い、大人のボディーラインを強調するようなものだった。誰が見ても美人、その一言。
ミッロマルネファミリーとは最近勢力をつけてきているファミリーで、手を組んで損はない、そんなファミリーだ。話を聞けば今月末に集会があるらしい。そこへ少し顔を出すだけでヴァリアーにとっても好都合になるかもしれない大事な会だ。彼は少し考えたあと、にやりと口角を上げる。

「ハッ、悪い話じゃねえ」
「有り難うございます。それでしたら…」
「だめえっ!!!!」

と、そこへ彼女が乱入する。美女と彼の間に割って入ると、美女をキッと睨みつける。

「うちは独立暗殺部隊です!同盟ファミリーなんか要りません!」

そう言うと彼女は強引に彼の腕を引っ張って会場を出ていった。

原因はそんなことだった。




(( けんか ))




パーティーから帰ってきてすぐに自室へ逃げようとした彼女を追って彼も苛々と歩みを進める。彼より一歩先に自室に入ることに成功した彼女はあからさまにガチャッと鍵をかけた。

「…おい」
「うっさい!」

開けろ、と続ける前に怒鳴られた。今怒っているのは自分なのに何故彼女に怒鳴られなければならないのか分からず、一層苛々と奥歯を噛む。一瞬の迷いもなく、次の瞬間彼はドアを蹴っ飛ばしていた。

──ズガァン!

弾丸でも放ったのかという音が響き、ドアが吹き飛ぶ。彼女はポカンと部屋の真ん中に突っ立っていた。

「…おい」

もう1度声を掛ける。彼女はジロッとこちらを睨んでいた。

「入ってこないで!」
「るせぇ」

彼女の言葉を完全に無視してツカツカと部屋へ入ってくる。彼女との距離が縮むたび、彼女は少し怯えたように後退していった。それもそのはず、愛しの彼とはいえ怒っているときの目は冷たく恐怖以外の感情を持てなくなるほど恐ろしいからだ。それすらお構いなしに歩みを進める彼に追い込まれ、ついに彼女の背中はトンと壁にぶつかって、これ以上下がれないことを知らされた。

「あ、の…ザンザス…」
「てめぇ、何勝手に決めてんだ。あ?」

怯えきっている彼女に追い撃ちをかけるように、彼は彼女の顔の横に乱暴に腕を置く。ドン、と響く音にビクッと肩を上げると、彼はぐっと顔を近づけてきた。

「何とか言え」

(うわあ、めちゃくちゃ怒ってる…!)

いつもより冷たい目。ぶすっとしているが不器用に優しいいつもの彼とは大違い。本気で怒っている顔だ。自分のしでかした事の重大さがじわじわと分かってくる。

「だ、だって、」
「あ?」

言い訳しようとしたのがバレたのか、彼はますます不機嫌そうに眉を吊り上げた。

「だってぇ…、う、ふぇぇ…っ」
「な、」

あまりの怖さに耐え切れなくなり、彼女はついに下を向いてボロボロと涙を零す。きつく鋭い目も不意をつかれて丸く開かれた。彼は慌てて壁から手を離すと、その手で彼女の肩を掴む。刹那、ビクッと跳ねる肩。完全に怖がられていると悟った彼は、パッと手を離してから両手を広げて降参だとばかりに彼女に手の平を見せた。

「おい」
「っ、う、ぐ…っ」
「…チッ」

それでも泣き止まない彼女に苛々と舌打ちをした。それすらも彼女の心にグサリと刺さり、ますます涙が流れ出る。

「ざん、ざす、が」
「………」
「あの人に、ふ、ぇっ」

それでも必死に訴えようとする彼女をじっと見つめる。泣いている彼女を見るのは気分の良いものではない。もちろんベッドの中は例外だ。

「あの、人に、ん、ぐすっ、うぅ…っ」
「なんだ」

話が進まずに涙だけ流す彼女にもう1度問う。彼女はやっと顔を上げたが、涙でぐしゃぐしゃになっている。それほど恐怖を与えてしまったのかと反省の意味を込めて、彼女の頭を優しく撫でた。

「は、ぅ」

嗚咽を繰り返す彼女を宥めるのはどうしたらいいのだろうか。彼は少し考えてから、彼女の腰に手を回し、自分の腕の中へ彼女を閉じ込めた。

「ざんざす、っ」
「落ち着け」

いつものように優しく包まれる。不器用な愛がごく僅かだが伝わってきた。きゅう、と彼のシャツを握りながら彼女はまた口を開いた。

「あの人、美人で、ざんざすがあの人に、とら、れたら、ど、しよ、って、ぅ、」

嗚咽がひどくて聞き取りづらいがはっきりと聞こえたそれ。弱々しく吐き出された本音に彼はもう1度舌打ちをした。

「ドカスが」
「っ、ごめ、」
「いらねぇ心配してんじゃねぇ」

めんどくさそうな彼の声。きゅう、と喉の奥が潰れるように痛くなる。それと同時に彼は彼女から少しだけ体を離した。それから掌を額に当てられ、くいっともっと上を向かされる。彼が長身のため見上げるのが疲れる。

「あの状況で何でそんなこと考えてたんだ」
「ほ、ほかのファミリーはみんな断っ、たのに、あの人だけ、おっけ、したから」
「ミッロマルネファミリー。聞いたことねぇか?」
「え?あ…」

(よくスクアーロが口にしていた有名なファミリーかもしれない…もしかしてあそこと同盟の話が…?)

彼女は再度困ったように下を向く。

「わた、し、あんまり話聞いてなくて…ごめ、なさい…」
「もういい」
「え、?」

一瞬反応が遅れた。今からミッロマルネファミリーに謝りに行けばきっと許してくれるはず。相手はあのヴァリアーなのだから。それなのに彼は興味がないとでも言うように手を払った。

「悪くねえ話かと思ったが、そんな顔させるなら断って正解だ」
「な、にを…」
「るせぇ、もういい」

ぐい、と腕を引っ張られる。逞しい胸板にダイブして、また大きな腕に包まれた。優しくて安心する彼の匂い。彼女はごめんね、と呟く。

「名前」
「え?」

耳のすぐ近くで聴こえる低音。小さい声なのに鼓膜にびりびりと響く。

「その…悪かったな」
「あ、え?だ、いじょうぶ、って」

耳の近くにあった唇が耳朶にちゅ、と口づけられ、彼女は身を捩った。

「ザンザスが、ん、謝るなんて、」
「黙ってろ」

リップ音を鳴らしながら耳の中を舌で犯される。彼の照れ隠しだろうか。不器用なそれがとても愛しくて。

「ふふ…ありがと、ザンザス」
「黙ってろって聞こえねぇのか」

ボソッとお礼を呟くと彼はハッ、と笑って彼女を担ぐ。行った先は当然のようにベッドの上だった。照れ隠しでしている行為なのにますます照れさせたら逆効果だったのに、彼女はそれを知らず。

「え、ちょ、急に…あっ」

すっかり行為に没頭している2人は忘れていた。…先程彼が吹き飛ばしてドアがなくなっていることを。


END
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声を聞き付けたベルとフランが面白がって集まり、そこにむっつりレヴィが集まり、スクアーロが通り掛かってショックを受け、皆がいないから捜しにきたルッスーリアも面白がって見る、という事態が起こっていたらいいと思います。ザンザスは途中で気づくけど主は気づかず終いで後々ネタにされたらもっといいです。
というか、ミッロマルネファミリーって何ですか。誰か教えてください。ネーミングセンスのカケラもなくてすみません。
名前様、お付き合いありがとうございました。
20120725
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