「こいつの部屋はどうすんだぁ、ボスさんよぉ」

スクアーロは少女を抱えたまま部屋に入ってきました。ボスはチラリと視線だけ投げます。地に足が着かずに時折手足をぱたぱた揺らしますが、何の意味も成さない抵抗だと理解して大人しくなる少女はどこか楽しそうです。ボスは視線を書類へ戻しました。

「置いてけ」
「お゙?」

置いてけぇ?ここにかぁ?
スクアーロは信じられないといった様子でボスを見つめますが、一旦下げられた視線が合うことはありません。スクアーロは恐る恐る少女を床に降ろしました。

「し、正気かぁ…?」

問いますが返事はありません。床に降ろされた少女は無邪気に走りだし、部屋の隅で寝そべっているベスターに興味を持ち出します。

「ボス…」
「用は済んだか」

地を這うような低音には怒りの色が混じっていました。これ以上スクアーロにしつこく訊かれたくないということです。スクアーロはハッとします。

「ゔぉぉ…何かあったら呼べよぉ…」

スクアーロはどこか心配そうですがボスの指示ならば仕方ありません、渋々部屋を出ていきました。喧しい男が居なくなると途端に部屋は静かになります。ボスが少女へ視線をやると、もう少女は眠るベスターへ手を伸ばしているところでした。

「おい」

大きくはないですがしっかりとした声に少女はびくっと肩を揺らしました。ボスはデスクから立ち上がり、少女の許へ近付きます。少女はなんだなんだとボスを見つめますが、無表情のボスからは何も読み取れません。

「こいつにはちょっかい出すな」

ボスが一瞬背を屈めたと思うと、少女の腕をぐっと掴み、あっという間に宙に浮かせてしまいます。少女はびっくりして足をぱたぱたさせます。

「いや!はなして!」
「るせぇ」
「さわりたいの!」

少女はベスターを見つめながら手を伸ばしますが、ボスは許しません。少女を横抱きにしてデスクへと戻っていきます。

「咬まれるぞ」

少女はやっと手を引っ込めました。渋々諦めたように眉を下げ、大人しくボスに抱かれます。ボスはデスクまで行くと腰を下ろし、その膝に少女を乗せました。少女はボスの顔をまじまじと見つめています。

「あなた、ぼすっていうの?」
「…」
「ねえぼす」
「テメェは」
「わたしは名前!苗字名前っていうの!」
「そうか」

ボスは名前ちゃんの両頬を片手で包み、感触を確かめるように動かします。きょとんとした顔の名前ちゃんは何とも愛らしいです。ボスは無表情ですが、目がいつもより優しいです。

「いくつだ」
「8歳」
「…」

名前ちゃんは思ったより幼く、ボスはさすがに怖くなってきました。何でこいつはこんなに可愛いんだ、まさか俺は本当にロリコンなのか、いやちげぇ。頭の中をぐるぐる回る犯罪という2文字ですが、何度も人を殺めているとは思えませんね。ボスは名前ちゃんから手を離します。

「ねえぼす、わたしずっとここにいるの?」
「あぁ」
「ままは?」
「…探してやる」
「ほんと!?」

名前ちゃんはパァッと笑顔になりました。目がキラキラ輝いています。このひといいひとだ!と名前ちゃんの顔に書いてあります。ボスは大変気まずそうに視線を逸らしました。母親が見付かれば保護していたと差し出せますが、もし母親が見付からなければただの誘拐になってしまうからです。どの任務よりも優先して母親を探させなければなりません。何より、母親が見付かれば名前ちゃんがきっと幸せです。ボスは少々荒っぽく名前ちゃんの頭を撫でてやります。

「それまでは好きにしてろ」

ボスがそう告げると、名前ちゃんは嬉しそうにボスに抱きつきました。ふわふわとした髪の毛が顔に当たって擽ったいです。名前ちゃんは自分よりもずっとずっと大きいボスへの恐怖心が完全になくなりました。

「ありがとう!だいすき!」

名前ちゃんが耳元で大きな声を出しても、ボスはいつものように怒鳴ることもせず、フンと鼻を鳴らしながら満足そうに名前ちゃんを抱き締めてやりました。
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