「えー、じゃあもう3ヶ月くらい会ってないわけー?」
「そうなるね」
「1ヶ月も連絡こないんでしょ?」
「うん、まあ」
「それもう自然消滅じゃない?それか浮気してるとか?」
「え」
名前ちゃん、恋バナなうです。ですが何だか顔色が悪いです。お友達も少し困った顔をしてますね。
「遠距離恋愛は浮気が分からないないから心配だよね。名前、もっと自分から連絡とるべきだよ」
「……」
「名前?」
「…うん、そうだね」
名前ちゃんの表情は曇ったままでした。
(( 遠距離恋愛 )) プルルルルル…
プルルルルル…
「…出ない」
その日の夕方、名前ちゃんは途端に不安になってザンザスへ連絡をとろうと思いました。ザンザスは名前ちゃんと出会う前はそれなりに遊んでいましたし、浮気はしないだろうとは思っていてもやはり心配です。また遊び人に戻っていたらどうしようと考えるだけで泣きそうです。それでもザンザスは出てくれません。
「…ザンザスが忙しいってことは、スクも忙しいのかなぁ」
これは仕事で忙しいのだと名前ちゃんは自分に言い聞かせます。泣きそうな表情を無理矢理引き攣らせると、今度はベルに電話をすることにしました。
プルルルルル…
プルルルルル…
ピッ
「あー?名前?」
すると、ベルはちゃんと出てくれました。名前ちゃんは嬉しくてその場でぴょんっと飛び跳ねます。
「ベルー!」
「俺の携帯なんだから俺以外出るわけねーだろ」
「そうなんだけど!」
「どうしたんだよ」
名前ちゃんは落ち着こうと思い、ひとまずソファに座りました。それから深呼吸。
「あのねベル、今お仕事忙しい?」
「別に?むしろ暇かも」
「あ、そうなの…?ザンザスは?」
「ボスも暇っしょー、最近は簡単な任務しか入んねーし下っ端にやらせりゃいいから」
「…じゃあ今何してるの?」
ごくり。名前ちゃんは喉を鳴らしました。それが聞こえたのでしょうか、ベルはししっと笑います。
「気になんの?」
「一応、は」
「ボス信用ねぇんだな。ま、あんだけ連絡とらなきゃ仕方ねーか」
「信じては、いるよ」
「ふーん?」
名前ちゃんは今にも泣きそう、でもベルは何だか楽しそうです。
「じゃあ教えてやるよ。ボスは今女に会いに行ってるぜ」
「え」
「信じてるんだよな」
ベルはししっと笑うと名前ちゃんの様子を伺うこともなく言葉を繋げます。
「あのボスから出向くくらいだから、きっとすげー愛されてる相手だぜ」
「あ、あの……その人にはよく会いに行くの…?」
「知らねー。別に頻繁ではないと思うけど」
ベルの言葉に名前ちゃんはどんどん胸が痛くなっていきます。浮気なのかな、と心の中で呟くと何だかおめめまでうるうるしてきてしまいました。
「…分かった、ありがと」
ピッ。ベルの言葉を待たずに名前ちゃんは通話を切ります。気持ちも表情もどんよりです。
(うわー…、さいあく)
聞かなきゃ良かったと思ってももう遅いのです。名前ちゃんはベッドに寝転がり、枕に顔を埋めました。枕はどんどん濡れていきます。
(浮気じゃない…浮気じゃない…)
名前ちゃんは心の中で唱えますが、頭の隅では浮気されていると思ってしまい、涙が止まりません。そのまま名前ちゃんは眠りに落ちました。
(…なんかごつごつしてる)
名前ちゃんは目をごしごししながら起きました。泣きながら寝てしまったせいか目が開けにくいです。ごしごしごしごし擦って、名前ちゃんはバッと目を見開きました。
「ザンザス!?」
そう、名前ちゃんはザンザスの膝の上にいました。さっきまでふかふかの布団の中にいたはずなのに、ごつごつしてた理由が分かりました。でも何で。名前ちゃんは言葉を失います。
「やっと起きたか、カス」
久しぶりに会ったというのにザンザスは相変わらずの態度です。名前ちゃんはまた泣きそうになりました。
「なん、だ…そういうことかぁ…」
ベルは名前ちゃんに、女に会いに行ってると言いました。つまりザンザスは名前ちゃんに会いにきてくれていたのです。ベルも意地悪ですからああいう言い方しかできません。でもやっと不安はなくなりました。
「よかっ、た…うわき、かと」
「あ?」
「なんでも、ない」
名前ちゃんは嬉しくてぎゅーっとザンザスに抱き着きます。ザンザスはよく分かっていませんがとりあえず名前ちゃんを抱きしめました。
「会いにきてくれたの?」
「違ぇ」
「じゃあ、何で?」
ザンザスと会話するには1つ1つこちらから質問する必要があります。ザンザスは短い答えしかくれないから名前ちゃんももうすっかり慣れて質問しました。ザンザスはチッと舌打ちすると不機嫌そうに言いました。
「仕事でたまたま日本に来たついでだ」
「え?」
でも、ベルは仕事ないって言ってたよ。
出かかった言葉を名前ちゃんは必死に飲み込みました。そうでした、ザンザスは素直じゃないのです。わざわざ年下の彼女のところまで健気に自ら会いにきたなんて恥ずかしくて言えません。名前ちゃんはふふっと口元を緩めました。
「…そっか、ありがとう」
「あぁ」
名前ちゃんはザンザスの胸板に顔をすりすりしました。久しぶりの感触、匂い、全部が名前ちゃんをときめかせます。
「ザンザス、会いたかった」
「あぁ」
「大好き」
「あぁ」
「…もっと、会いたいよ」
ザンザスはいつだって相槌をうって話を聞いてくれます。名前ちゃんにだけですが、そんな優しいザンザスをますます好きになり、名前ちゃんはわがままを言ってみました。もっと会いたいと思っているのは自分だけかもしれない、わざわざイタリアから日本に頻繁に来るのは面倒かもしれない、名前ちゃんはどきどきしながら返事を待ちました。ザンザスは暫く黙ったまま。やっぱりわがままは聞いてもらえないのでしょうか。名前ちゃんはじんわり出てくる手汗を感じながら言葉を取り消そうと口を開きました。
「…やっぱり、」
「そうだな」
それに被せるように、ザンザスの声。名前ちゃんはびっくりしてザンザスの顔を見つめます。
「来月からは、日本に来る用が増えるかもしれねぇ」
「え、」
「ついでに寄ってやる」
名前ちゃんはぶわっと涙が溢れてくるのを感じました。ザンザスは名前ちゃんにはとっても優しいのです。名前ちゃんは涙を拭うようにザンザスの胸板に顔をすりすりしました。
「ほんとにありがとう、大好きだよ」
「あぁ」
だんだん濡れていくザンザスのシャツ。ザンザスは短く返事をしながらそれを眺めていました。名前ちゃんの頭を撫でる手がいつもよりずっとずっと優しかったのは気のせいではないはずです。
「ザンザスも私に会いたかった?」
「るせぇ」
「うふふふ、照れてる」
「ドカスが」
ザンザスはあまのじゃくです。そんなことを言いながら、とっても優しく名前ちゃんの頭を撫でていました。
END
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久々に会いに行ったら泣いてる主を目撃して動揺する→起きた主に浮気とか何とか言われて涙の理由を理解する→寂しい思いさせたくないって思いながら素直になれないザンザスを書きたかったお話です。あまのじゃくザンザス可愛い。その後週1とかで会いに来たら可愛いですね。名前様、お付き合いありがとうございました。
20121020
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