初日の出などとうに過ぎ、時刻は10時。ザンザスは名前ちゃんのベッドに腰掛けていました。

(何故起きねぇ…)

アルコバレーノに聞いた話と違ぇ、とザンザスは名前ちゃんの寝顔を見ながら思いました。日本では元旦になると着物を着ると聞いていたのです。ゆっくりしたい新年にわざわざイタリアからやってくる理由など、名前ちゃんの着物姿が見たいから以外有り得ません。なのに。

「んぅ…にぼし…?」

名前ちゃんはまだ夢の中。何の夢を見ているのやら、ザンザスのベルトをぐいぐい引っ張ります。

(起きろカス…)

ザンザスは苛々しながら名前ちゃんのほっぺを抓ります。結構力を入れているので相当痛いはずですが、名前ちゃんはいやいやと首を振るだけで全く起きません。

「にぼしはね…しっぽからたべるんれす…」

すやぁ。寝息を立てながら名前ちゃんはついにザンザスのベルトに指を挟んでしまいました。




(( お正月 ))




「起こしてくれたら良かったのに」

やっと名前ちゃんが起きたのは午前11時半。もうお昼になってしまいました。ザンザスは呆れながら名前ちゃんに乱されたベルトを直します。

「早く顔洗って着替えろ、カス」
「ふふ、ザンザスお母さんみたい。ちょっと待っててね」

名前ちゃんはザンザスのほっぺたにちゅっとキスをしてから部屋を出ていきました。これで一安心。ザンザスは安堵のため息をつきます。今度こそ着物姿を見れると思ったのです。しかし次にザンザスの前に姿を現した名前ちゃんは、普段通りの私服で歯磨きをしていました。

「そういえばザンザス、あけおめー」
「あけ…?」

聞き慣れない言葉に眉間に皺を寄せますが名前ちゃんは気づきません。

「1人で来たんだって?スク達は?急にずかずか入ってったらしいじゃん、お母さん達びびってたよ、ははは」

歯磨き中なのによく喋ります。しかも、そんなことどうでもいいのです。早く着物姿を見て、昼寝を始めたいのです。ですが名前ちゃんに直接言えるわけありません。ザンザスはうずうずいらいら。名前ちゃんも名前ちゃんで、そんなザンザスには全く気づきません。

「私が寝すぎちゃったからお母さん達先に初詣行っちゃったんだって。だからザンザスは私と行こう?」
「あ?」
「あれ、イタリア人じゃ神社はまずいのかな?」

初詣って何だ、という意味で訊き返したつもりでしたが、名前ちゃんは勝手に話を進めてしまいます。

「まあ初詣はいいや、そんなことより福袋買いに行こう!ね!」
「…」

日本語はまあまあ知っていると思っていましたが、普段聞き慣れない単語ばかり飛び交うのでザンザスは不機嫌になりました。正月ってめんどくせぇ。ザンザスはますます眉間に皺を寄せていました。




手を引かれて来たのは大きなショッピングセンター。どこのお店でも大セールや福袋を販売しています。いつもの移動手段が車なのでなかなか手を繋ぐ機会の少ない2人ですが、今日は仲良く手を繋いでなんだかカップルらしいです。見事に道を歩く全員が振り返るカップルです。

「…チッ」

ザンザスは鬱陶しそうに舌打ちしました。それもそのはず、ザンザスの目付きは鬼のように酷いものなので通行人が全員びくびくしているのです。名前ちゃんの着物姿を見れなくて苛々している上に知らない人からたくさんの視線を浴びせられたら気分の良いものではありません。しかもショッピングセンターに気づいたのですが、誰1人着物を着ていません。

(アルコバレーノ…カッ消す…!)

期待していた分がっかり度は大きかったようですが、それで落ち込む性格ではありません。それが全部怒りへ向いてしまうのです。ですが名前ちゃんの手を握る力はとても優しく、そんなこと名前ちゃんは気づきません。

「舌打ちしないの!ザンザスおっきいんだから皆びっくりしてるだけだよ」
「日本人がちっせえだけだ」
「えー?イタリア人だって皆が皆おっきいわけじゃないでしょ?」

あ、これかわいい。名前ちゃんはザンザスと会話しながらちょくちょくお店の福袋を手に取っては置いてしまいます。ザンザスは苛々しました。気に入ったなら買い占めればいいだろ、と何度も言いかけましたが機嫌が悪いときは口も開きたくないのでめんどくさくなってやめました。どうせ言ったところで「御曹司が考えつくことは怖い…!」と言われるだけですが。

「ねぇザンザス、この服とこの服、どっちが可愛いかなあ?」
「乳臭ぇな、もっと色気のある服を着ろ」
「じゃあいっぱい露出して外出てもいいの?」
「…チッ」

ザンザスの返事は舌打ち1つ。想像してみてやきもちです。ザンザスはますます不機嫌になります。

「おい、飯」
「あぁ、お腹が空いてたのかぁ。お家で食べる?どっか寄ってく?」
「肉」
「うん、返事になってないけどどっかに寄ってった方が良さそう」

名前ちゃんはザンザスの手を引きながらショッピングセンターを後にしました。




ザンザスとファミレスという組み合わせがどうしても想像がしにくく、結局そこそこ高級なレストランへ来ました。ザンザスのような御曹司と違って一般少女の名前ちゃんはなかなか来ないお店に落ち着かないようですが、黙々と肉を食べるザンザスを見て心を落ち着かせました。

「ところで、ザンザスって何しに来たの?」

ぎくり。ザンザスは無表情ですがフォークが止まります。まさか着物姿を見に来たなんて言えません。いい歳した暗殺部隊のボスが何しに来てるのだと言われてしまうだけです。

「るせぇ」
「え、何で怒るの」
「カス」
「…はーん?」

ザンザスが名前ちゃんにカスと言うときは大抵照れ隠しです。名前ちゃんはにやぁっと悪戯に笑いました。

「私に会いたくなった?恋しかったのかな?」

なかなかいい線はいっていますが違います。ザンザスはフンと鼻を鳴らしました。もちろんバレたらと考えると余裕などないのですが。

「そう思ってろ」
「ありゃ、違うのか。じゃあなんだろー」

名前ちゃんはこてんと首を傾げます。と、そこへ突然の受信音。

「あ、メールだ。…ん?リボーンから?珍しいなぁ…」

名前ちゃんの呟きにザンザスは目を開きました。バラされると思ったのです。ザンザスはリボーンに着物のことを聞いてすぐに日本へ発ったのですから。ザンザスはだんっとテーブルを叩いて音を出し、名前ちゃんの視線を自分に向けさせます。

「おい、そのメールは消せ」
「え?」
「読まずに消せ。それは嘘だ」
「それって何」

名前ちゃんはザンザスの話を聞かずにメールを開いてしまいました。ザンザスは小さく舌打ちします。名前ちゃんの口角がだんだん上がってきたのが分かったからです。

「…ははーん、ザンザスってばこんなことで会いにきてたのかぁ」
「だから嘘だって言ってんだろ」
「はいはい、可愛い可愛い」

名前ちゃんは満足げに笑いながらザンザスを見つめます。ザンザスは気まずそうに視線を逸らしました。

「そっかそっかぁ、そんなに見たかったんだ。確かにイタリアじゃあ見れないもんね」
「…るせぇ」
「まあ着ないけど。着るのめんどくさいし」

(着ねえのかよ)

ザンザスが無意識に舌打ちをしました。そんな不機嫌なザンザスに、名前ちゃんはまたにやりと笑いました。


END
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オチ迷子になったので強制終了です。ただ甘くザンザスとお正月を過ごしたかっただけです。不機嫌なザンザスに舌打ちされたいだけです。名前様、お付き合いありがとうございました。
20130108
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