「ゔぉぉい!!!!」

特徴的な声が聞こえてきました。怒りの色が混ざったその声は彼の短気な性格が表れています。談話室で名前ちゃんを取り囲んでいた幹部達は一斉に舌打ちをし、腰を上げます。名前ちゃんはきょとんと、先程の声の主を見上げていました。

「テメェらやっぱりここにいやがったかぁ!任務はどうしたぁ!」
「そろそろ行こうと思ってたんですよー」
「嘘つけぇ!」
「ししっ、相変わらずうるせーやつ」
「まぁまぁ喧嘩しないの。仕方ないわよぉ、こんな可愛い子がいるんだもの」

幹部達が散らばると中から名前ちゃんの姿が見えました。スクアーロはやれやれと首を振ります。この子が来てからというもの仕事にならないのです。不満を漏らしながら部屋を出て行く幹部達を見送ると、スクアーロは名前ちゃんを睨みつけます。

「ゔぉぉい…」
「ゔぉぉい?」

スクアーロのまねっこをして楽しそうに笑う名前ちゃんは確かに可愛いのですが、可愛いだけでは許せないことだってこの世にはあるのです。スクアーロは名前ちゃんを抱き上げると自分の肩へ担ぎます。

「邪魔ばっかされると困るぜぇ。ボスの命とはいえ此処にいさせねえぞぉ」
「す、すてるの?」

前が見えない名前ちゃんはズカズカと歩みを進めるスクアーロに不安を覚えました。皆仲良くしてくれるのに捨てられては寂しいです。名前ちゃんはいやいやと暴れますがスクアーロは涼しい顔で歩いていくだけでした。

「暫くは此処にいてもらうぜぇ」

スクアーロは何処かの部屋の前で立ち止まり、ドアを開けます。室内は綺麗に整理されていて広く、デスクの上にはたくさんのファイルが積み上げられていました。

「ここどこ?」
「俺の部屋だぁ」

いいかぁ、とスクアーロは言葉を続けます。

「煩くしたら本当に追い出すぞぉ。俺の仕事の邪魔をしなければ何をしていてもいいがなぁ、勝手に出歩くなよぉ」

どさっと乱暴にソファに降ろされ、怒鳴るようにそう言われました。スクアーロの目はギラギラ光っていて心底おまえに迷惑していると語り掛けてきます。名前ちゃんは怖くなって涙が溢れました。

「う…っふぇ」
「泣くなぁ、煩ぇやつは嫌いなんだぁ」
「ご、ごめん、なさ…っすてないで…っ」

少々強く言い過ぎてしまったでしょうか。名前ちゃんはスクアーロに言われた通り静かにしようと健気に嗚咽を押し殺そうとしますがあまり意味を成していないようです。普段は人殺しをしているとはいえ心が鬼のわけではありません。スクアーロは罪悪感でいっぱいになり、名前ちゃんの隣へ腰掛けます。

「ゔぉぉい…泣くなって言ってんだろぉ…」
「ひっぐ…ふ、ごめん、なさ」
「捨てないから泣き止めよぉ…」

こういうときにどうしたらいいのかさっぱり分かりません。息の根を止めることや部下を扱き使うことは得意なのですが、小さい子の扱いは苦手なのです。名前ちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫で回し髪を乱しますが、その程度で泣き止む単純さんではないです。

「す、すてないぃ…っ?」
「あぁ」
「じゃあ、っ、いいこにしてる…」

名前ちゃんはぐずぐずと鼻をすすりながらしゅんと俯いてしまいました。スクアーロは名前ちゃんから手を離すと、気まずそうに瞳を揺らします。泣き止む様子がないのです。声こそ出しはしませんが、涙が止まることもありません。名前ちゃんの体を持ち上げ、自分の膝に乗せて向かい合わせに座りました。

「なぁ、泣くなよぉ…」

スクアーロは名前ちゃんの頬を掴んで上を向かせ、涙を拭ってやります。大粒の涙で頬を濡らす名前ちゃんは捨てられた子犬のような可愛さがあり、スクアーロはますます気まずくなります。濡れた瞳で見上げられると弱いのです。くりくりのおめめが光を浴びて一層輝き、何だか胸の辺りがきゅんとなりました。

「ゔぉ…い」

こんなことではいけません。これではサボり幹部達と一緒になってしまいます。スクアーロはハッと我に返り、名前ちゃんを強く抱き締めました。こんな顔を見るからこうなるんだ、見なければいい、ということでしょうか。少し苦しいくらいに抱き締められた名前ちゃんは窮屈そうにもぞもぞ体を動かします。

「泣き止むまでこうしててやるぞぉ、有り難く思うんだなぁ」

スクアーロは名前ちゃんを抱き締めたままゆらゆら前後に体を動かしました。赤子は揺らすと泣き止むとどこかで聞いたことがあったのです。勿論名前ちゃんは赤子ではありませんが、子供に慣れていないスクアーロはこうする他なかったのでしょう。名前ちゃんは相変わらず苦しそうに手をもぞもぞさせますが、スクアーロは気づきません。やっとの思いで両手を外に出せたかと思えば、無防備になった胸元をスクアーロの胸板で擦られてしまいます。

「っあ…」
「あぁ?」

小さく名前ちゃんの声が漏れました。スクアーロは何の声だか分からずに体を揺らすことを止めません。力加減の分からないスクアーロは名前ちゃんの胸を体に密着させたまま力を緩めません。名前ちゃんの胸はさらに擦れていきます。

「ふ、ぁん…っまっ、て」
「…?」

スクアーロは異変に気づいたようです。自分の腕の中でびくりびくりと肩を跳ねさせる名前ちゃんを心配し、一旦腕の力を緩めてみることにしました。名前ちゃんは下を向いたままなのでまだ泣いているのかもしれません。スクアーロは不安になります。

「ゔぉぉい、どうしたんだよぉ」

ぐいっと顎を掴んで顔を上げさせると、意外にも名前ちゃんの涙は止まっていました。が、そんなことより、何故かとろとろに蕩けていたのです。スクアーロはぎくりとします。紅潮した頬、濡れた瞳がなんとも艶美な様子でした。思わず手を離します。

「な、な、なんなんだぁ!」
「ふ、ぇ?」

スクアーロは完全に動揺していました。こんな幼い子がこんなに色っぽく自分を見上げるのですからどうしていいか分かりません。

「いまの、きもちかった…」
「あぁ!?」

さらに追い打ちをかけられます。名前ちゃんは再び抱っこをねだるようにスクアーロに手を伸ばしますが、スクアーロは自分の年齢を思い出し、慌てて名前ちゃんを膝から退かしました。

「うー…?」
「な、泣き止めたようだなぁ!」

スクアーロは急いで立ち上がり、名前ちゃんを置いたままデスクへ行きました。きょとんとした名前ちゃんが目でスクアーロを追っています。スクアーロは手元にあった報告書を手に取ると、名前ちゃんを睨み付けました。

「これから仕事をするから、邪魔するなよぉ」

名前ちゃんは素直に頷きソファでじっとしていましたが、その後スクアーロは真面目に仕事なんか出来ませんでした。
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