コンコン
ベルの部屋をノックする音が聞こえます。ベルは舌打ちをしました。どうせフランだろうと無視をしますが、ノックはしつこくされ続けます。

「せんぱーい、いますよねー?」

やはりフランでした。気だるげな喋り方は相変わらずで勘に障ります。ベルは苛々と頭を掻きました。

「あんだよ」
「入りますねー」

ベルの返事を待たずにドアが開かれます。ひょこっと見えるカエルの被り物に名前ちゃんの目は一瞬で輝きました。

「あ!かえるさん!」
「おーやっぱりー。拐ってきたんですかー」

フランはベルの許目掛けてズカズカ入ってきて心底軽蔑した目でベルを見つめます。

「まさか手は出してないですよねー?」
「うっせ、関係ねーだろ」
「…さすがに引きますー」

フランはベルの隣に座っている名前ちゃんの腕を引っ張り、自分の腕の中へ収めました。急に抱き抱えられて名前ちゃんはびっくりしますが、目の前には可愛いカエルがいるのです。嬉しそうに笑いました。

「かえるさん!」
「フランですよー。こんな先輩といると変態が移るのでミーの部屋へ行きましょうねー」
「てめっ、勝手に、」

フランが名前ちゃんにそう言うとベルはナイフを取り出しました。しかし名前ちゃんはそんなことも知らずにフランの首へ腕を回します。

「うん!ふらんのとこいくー!」
「いい子ですねー」

フッと鼻で笑うフランは一瞬ベルに視線を飛ばしたあと、部屋を出ていきました。殺してやろうとも思いましたが、フランがそう簡単に死なないことも分かっています。ベルは面白くなさそうに舌打ちをしました。




***




部屋に着いたというのに名前ちゃんはフランの許を離れませんでした。ずっとべったりくっついてカエルの被り物を撫でているのです。

「それ面白いですかー?」
「うん!ふらんかわいい!」
「フランはそいつじゃなくてミーのことですー」

あまりにもしつこく撫で回すものですから流石に頭が重くなってきました。フランは頭に引っ付いている名前ちゃんを引き剥がし、自分の膝に座らせます。

「なるほどー、確かに可愛いですねー」
「かわいい?」
「何でもないですよー。あなたはどこから来たんですかー?」

フランは世間話でもしようと思ったのですが、話題が話題で名前ちゃんは俯いてしまいました。お母さんを思い出して寂しくなっているのでしょうか。フランは地雷を踏んだと気づきます。

「ままけがしてないかな…」
「大丈夫ですよー、ボスがお母さんのことも探させていますのですぐ見つかると思いますー」
「ほんと…?」
「はい、ほらカエルさんも大丈夫って言ってますよー」

フランは柄にもなくそんなことを言うと名前ちゃんに頭を振って見せました。名前ちゃんは再び笑顔を取り戻し、被り物に飛び付きます。

「うん!ありがとうかえるさん!」

フランの頭上で、ちゅっとリップ音が聞こえました。直接は見えませんでしたが、キスをしたのでしょう。フランはむむっと口を尖らせます。

「今ちゅーしましたー?」
「うん!」
「カエルさんだけですかー?」

膝立ちしている名前ちゃんの腰を掴み、自分の膝へ座らせ直しました。これでやっと名前ちゃんと目が合います。

「ミーには何にもないんですねー」
「ふらんちゅーしてほしいの?」
「してほしいですー」

さあどうですかなとフランは名前ちゃんを観察しました。意外にも名前ちゃんには躊躇いがなく、フランが言うと直ぐに唇へちゅっとキスを落としたのです。フランはびっくりしました。幼いとはいえまだキスの意識を持っていないのでしょうか。フランは意地悪をしてみたくなりました。

「それだけですかー?」

名前ちゃんはフランの隊服を掴みながらこてんと小首を傾げます。それだけという意味が分からないのでしょう。

「もっとしたいの?」
「そうじゃなくてー、舌を使ってキスしてくださいー」
「べろ?」

ますます意味が分からないという表情です。名前ちゃんが頭の周りにたくさんのハテナマークを飛ばしているのが分かりました。フランは仕方ないと言った様子で名前ちゃんの顎を掴みます。

「べろ出してくださいー」

名前ちゃんは何が何だか分からない様子でしたが言われた通りに舌を突きだしました。ちろりと覗く赤い舌は美味しそうです。その素直さも可愛くてフランは上機嫌でした。早速自分の舌で名前ちゃんの舌を舐めますが、名前ちゃんはびっくりしたのでしょうか、舌を引っ込めてしまいました。

「やっなに…」
「動かないでくださいー大人はこうやってちゅーするんですよー」
「そうなの…?ふぇ…っ」

再び絡められた舌に名前ちゃんは目をしぱしぱさせます。フランの舌は名前ちゃんの口腔へ浸入し、内壁、そして歯列をなぞりました。ぬるっとしたその感触は今まで感じたことがなく、擦れ合うと独特の刺激と温度に名前ちゃんは思わず熱い息を漏らしました。気持ちいい、純粋にそう感じたのです。ゆっくりと目を閉じた名前ちゃんを見てフランはさらに深く舌を絡ませてきました。全体を絡ませて嬲ったり、唾液を吸い上げたり、舌先を遊んだり、名前ちゃん相手に何だか本気になっている様子です。

「は、ぅ…ん、ん」
「可愛いですねー…」

僅かに唇を離すと名前ちゃんはとろんと目を開けました。唾液で濡れた唇はとても妖艶で、涙で睫毛を濡らしている瞳もまた同じです。フランは名前ちゃんの頭を撫でました。

「気持ちよかったですかー?」
「うん…これすき…」

蕩けた表情の名前ちゃんにフランは気分がよくなりました。もっと乱したくなります。フランは名前ちゃんの髪を優しく撫で、目を細めます。

「ボスには内緒ですよー。さあもう一度口を開けてくださいー」
「んっ…っはぁ」

名前ちゃんは今度は自分からフランに絡みにいきました。小さな舌を健気に動かし、フランの隊服を握ります。フランは気持ち良さそうに名前ちゃんの腰を抱き寄せ、角度を変えながら舌を絡ませるのでした。
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