お母さんから、おばあちゃんが寝込んでしまっていることを聞いた。小さい頃から彼女はおばあちゃんっ子だったので当然のようだがひどく心配する。

「おばあちゃん、大丈夫かしら…」
「じゃあ名前がおばあちゃんのお見舞いに行ってあげなさい。渡してほしいものもあるから」
「え、いいの?!」




(( 赤頭巾ちゃん ))




こうしてお使いを頼まれたのは、ついさっきのこと。危険だと言われる森の中だが彼女はおばあちゃんのことだけを考えて一歩一歩しっかりと歩んでいく。
それから20分も歩いただろうか。おばあちゃんの為とは言え、山道はそう簡単に歩き続けられるはずがない。

「ふぅ…ちょっと疲れたかも」

そこら辺の木に凭れ掛かり、一息ついていると。

「なーにしてんの?」
「あら、こんにちは」

ニコリと笑いかけたら、あちらもニコリと返してくれた。彼は狼なのだが、彼女は全く気付くはずもなく。

「こんなとこで休んでんならさ、あっちで王子とイイコトしねぇ?」
「良いこと?何をするの?」
「ししっ、それはシてからのお楽しみ〜」

ぐい、と顔を近付けられ、耳元でクスリと笑われる。それを擽ったいとでも言うように身体を跳ねさせ、彼女は狼を見上げた。

「でも私、行くところがあるの」
「あ?じゃあ俺が一緒に行ってやるよ」
「え、いいの?」

ぱあっと顔を明るくさせると、にやりと妖しい笑い方。ごく自然に腰を抱いてくる。

「あぁ、行こうぜ」

それから彼女をエスコートしようとした、その時。

―ズダァンッ!

激しい銃声が響き、狼はムッと顔を顰めた。狼の足すれすれに煙が立つ。明らかに彼を狙って放った一発だった。狼はチッ、と舌打ちし、彼女にまた会おうな、と笑いかけてから逃げていった。何故彼が行ってしまったのかと考えるとよく分からなくて、彼女は首を傾げた。

「大丈夫でしたかー?」

銃声を響かせた本人が、木の陰から現れる。そちらを向くと、カエルの帽子を被った狩人がひょっこりと彼女の方へ歩いてくるのだ。

「ええ、大丈夫。ありがとう」
「いえいえー。この森はすごく危ないですから、ミーがついてってあげますよー」
「いや、大丈夫よ?」
「何が大丈夫なんですかー。さっきみたいに狼に声掛けられてついてったりしちゃったら、喰べられちゃうんですよー」
「えっ」

(さっきの、狼だったの…?!)

そう気付けば途端に怖くなる。自分はあの狼を狼だと気付かず、一緒に行こうとしてしまったのだから。

「…じゃあ、一緒に行ってくださるかしら?」
「勿論ですー。さ、行きましょうかー」

ぐいっと腕を引かれ、彼女は彼についていった。

それから、さらに20分歩いた。やっとおばあちゃん家に着いたので、狩人の方を向いてお礼を言った。

「ここまで来てくれて、ありがとう。助かったわ」
「大丈夫ですよー。それより、帰り道も危ないのでちゃんとミーを呼んで下さいねー?そこら辺にいると思うんでー」
「うん、分かった。ありがとう。じゃあ行ってくるわ」

最後に頭をぽんぽんと撫でられる。ふにゃ、と笑って見せると、彼はほんの少し口角を上げた。






―コンコン

ドアをちゃんとノックしたのに返事がない。不審に思って、恐る恐るドアを開けた。

「おばあちゃん…?」
「何だ」

見ると、ベッドの上に堂々と腰掛ける狼。おばあちゃんとは似ても似つかない。返事をしたことで自分はおばあちゃんだと主張しているようだが、全く無意味なことだ。

「え…あなた、だぁれ?」
「あ?ババァだっつってんだろ」
「おばあちゃんじゃないよ…、あれ、おばあちゃんは?!」

当然の如く彼女はパニック状態だ。自分が大好きだったおばあちゃんが、こんな姿になっているだなんて。

(あれ…でも、もしかしたらイメチェン…?それとも新種の風邪の症状なの…?!)

ちらり、と視線をやる。

「…おばあちゃん、なの…?」
「あぁ」

嘘に決まっている。しかし彼女はそれを信じてしまって。

「そうなんだ、大変だったわね。横になってた方が良いんじゃない?」
「るせぇ。横になんのはテメェの方だ」
「え、」

腕を引かれ、ドサリと押し倒される。彼女は目を丸くして狼を見上げた。

「え…?」
「今からテメェを喰ってやるんだ、静かにしてろ」
「喰っ、え…?!」

近付く彼。良い獲物が来たと言わんばかりに舌舐めずりをする。逃げなければ危ないと分かっていても、恐怖で身体が動かない。さらに弱々しく手で彼の胸板を押したところで、体格の違いもあってびくともしない。

「やっ、やだぁ…っ」

顔を背けていたら、白い喉元に舌を這わされた。少しずつ下へと下がっていき、鎖骨を優しく甘く噛む。

「イイ声で啼けよ」

にたりと笑われ、彼女は抵抗する術が無くなったことを悟った。







――――――…


「…って、いうやつを、今度ジャッポーネの坊や達に披露しようかと思ってるんだけど、どう思う?」

ルッスーリアは全員を見回した。

「…え、これ、幹部会議じゃなくても良いよね?何この話し合い」

彼女は当然呆れている。まさか会議中に赤頭巾の劇の話になるなんて思いもしなかったから。

「てゆーか、何で披露したきゃならないんですかー」
「沢田綱吉が今度学校で劇をするみたいなのよー。それで、何だか楽しそうだから、私達もしようかと」
「ふざけんなですー。ミーはやりませんよ、そんなものー」

大体おいしいところはボスでさー、と唇を尖らせる。ベルもそれに頷いた。

「俺が名前を喰えるなら、やってやっても良いけどな。しかもこのバカガエルなんかに追い払われるなんてごめんだぜ」
「私なんか周りが危険だらけじゃん!」

それに人間と狼の違いが分からないほど馬鹿じゃない、と付け加えるが、周りの皆はいつでも危険なのは変わりないだろう、と目を遠くする。すると、ふるふると肩を震わせたのが、彼。

「ゔぉぉい!俺の出番がねぇじゃねえかぁ!!」
「一応あるのよー、喰べられたおばあさんの役」

くすくすと笑うと、スクアーロはぶすっと顔を顰めた。

「この場にボスとレヴィがいなくて良かったぜぇ…」

皆もそれに激しく同感だ。ザンザスならやろうと言うかもしれないし、それを聞いたらレヴィが泣く。さらに話がややこしくなって、結局彼女に怒られて終わりだ。

この案は誰にも口外されることなく、没になった。


END
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学生の皆様はそろそろ学祭の時期ではないでしょうか。私はちょい役のくせに足を引っ張った思い出しかありませんが、ヴァリアーとだったら死ぬ気で頑張ると思います(笑)
名前様、お付き合いありがとうございました。
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