「だから覚悟はできているかって聞いただろ」
「え、だって、そんな…」
「返事は待つ必要もねえな」

当然だと言うような顔をして彼女を見下ろした。やっと状況を理解できた彼女は軽くパニック状態でちろちろと目を泳がせている。

「テメェに拒否権はねえ」

強引に彼女の左手を自分の顔の前に持っていき、優しくキスを落とした。




(( 誕生日が記念日に ))




もう彼に会わないで一週間。

日本に帰ってきてからは時間が長く感じてならなかった。イタリアでは毎日が楽しくて、1日24時間ではとても足りなかったというのに。

(ザンザス、忙しいのかなあ…)

鳴らない携帯を10分毎にチェックしてはため息をついた。邪魔をしてはならない気がして自分からは連絡が取れないのだが、彼からわざわざ連絡がくるとも考え難い。

(ちょっとスクに電話してみようかな…)

スクアーロにはスクアーロの仕事があるのだが、ザンザスのことしか頭にない彼女は早速電話をかけだした。

こちらは現在夕方5時、ちょうど学校が終わったところだ。一方あちらでは未だ昼辺り、深夜や早朝というわけでもないので躊躇いなくコールを鳴らした。

8コール鳴らしたところでやっと出てもらえた。しかし出たのはまた別の彼。

『何だ』
「あれ…?」

鼓膜に響くようなしっかりとした低音。よく知った声で彼女が最も好む声だ。

「ザンザス?」
『だから、何だって言ってんだ』

苛々とした口調で言われ、本人だと確信する。それと同時にスクアーロは何処に行ったのかと気になった。

「スクは?」
『ハッ、俺には連絡寄越さねえくせに、このカスには用があるのか』

明らかな嫉妬だ。
彼がこんなにも分かりやすく態度に出してきたことがあっただろうか。彼女は一瞬目をぱちくりさせたが、直ぐに目を細めた。

「ザンザスのこと、スクに聞こうかと思って」
『俺に聞けばいいだろ』
「忙しかったら邪魔になっちゃうし」
『構わねえ』
「あと、抑えられなくなっちゃって…」
『言ってみろ』

一言一言が短いが、人とコミュニケーションをとっていることすら奇跡に近い彼にとっては素晴らしいことだ。ましてや彼女の話を噛み砕くようにしっかり聞くなんて。

「…会いたい」
『……あぁ』
「会いたいよ…」
『分かってる』

電話の向こうから切なげな声が聞こえた。彼女もきゅうと胸が締め付けられ、思わず涙が零れそうになった。

「いつ迎えにきてくれるの…?」
『テメェ、イタリアで暮らす覚悟できてんのか?』
「えっ?」
『…次俺がそっちに行けるのは来月になる。来月はテメェの誕生日だろ』
「ああ、うん」

確かに来月は彼女の16歳の誕生日。しかし何の関係があるのかさっぱり分からない。

「誕生日があるとイタリアに行くの…?」
『馬鹿かテメェは』
「え」

聞いた瞬間ぴしゃりと返された言葉に思わず肩を上げる。向こう側ではさも当たり前かのように話を進めていたが、彼女には全く分からない。

「ごめんなさい…何があるの?」

はあ、とため息が聞こえる。

『鈍い奴だな本当に。そんなこと電話で言うことじゃねえ』
「教えてくれないの…?」
『いずれ分かる。だからテメェはイタリアへの準備だけしてろ』

そう言って彼は短く別れの挨拶をして電話を切った。もう少し声を聞いていたかったが我が儘も言えない。

(それにしても…)

彼が言っていたあれは何だったのだろうかと首を傾げる。誕生日に迎えにこられてイタリアへ行く。イタリアには何回か行っているのに今更覚悟ができているかなんて、何かおかしい。

「うーん…?」

暫く考えてみたが答えは見つからない。とりあえずイタリアへ行く準備だけしておこうと彼女はキャリーバックを取り出した。



――一生帰してもらえないなんて予想もせずに。


END
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ザンザスは久々に書いた気がします。可愛いザンザスに会いたくて思わず手が動いていました。やきもちやきな彼の可愛さと言ったらもう…!
そして、この主人公のように鈍感な方にはちょっとした補足説明。16歳になれば女の子は結婚できるんですよね。つまり誕生日に迎えにくる=結婚しようってことです。プロポーズはきっとその日にかなり強引な言葉でされるんだと思います、冒頭のやり取りですね。
名前様、お付き合いありがとうございました。
20120308
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