ミスタ

「離れてくださるかしら」
低いトーンで私の心情を察した彼は、離れるどころか私の腰を抱き寄せる。掌で胸板を押したところで無駄なのだが、嫌がる素振りを見せる為に形だけ行った。
「おいおい、ご機嫌斜めじゃあねェか。怒ってるお前もかわいいけどよォ」
「煩いわよ、目障りだわ」
キスをしようとする彼を睨むが、彼は構わず私の首許へ顔を埋める。唇の感触を、彼の体温を肌で感じ、強く拒めない。首筋、耳裏、そして頬へ、抵抗がなくなった私にキスを落とす彼は、遂に唇を指でなぞり、愛おしそうに目を細めた。
「なァ、どうしたんだよ? 聞いてやるから言ってみろって」
「貴方に話したって解決しないわ」
「そうかもしれねェし、そうじゃあないかもしれねェだろ? ほら、言えって」
瞼にキスをする彼が優しい声色で私を絆していく。こんなのただの八つ当たりだ。それなのに彼はそれを受け入れながら私を見捨てない。
「…物好きな人ね」
「愛した女には優しいんだよ、男はな」
最後にゆっくりと唇を重ねる。こんなにも私を肯定してくれる彼に変な意地を張っているのが馬鹿らしくなり、彼の首へ腕を回した。
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