髭切

「へえ、そう」
目をまんまるくする彼から視線を逸らした。つい嬉しくて報告してしまったものの、この程度のことをいちいち伝えてどうするというのだろう。日々彼等に向き合って努力を重ねてきた審神者業だが、彼等にとってはそうではないかもしれない。言葉にした途端に不安へ陥り、彼と目が合わせられなくなる。彼等がわたしを責めたことなど一度もないというのに。
「それじゃあ、頑張ったんだね、主」
「え…?」
「おいで」
目の前の彼は優しく微笑み、わたしの手をするりと捉える。自然と顔が上がり視線が絡むと、彼は穏やかに目を細めていた。今までの成果を肯定されたのだと、審神者としての務めは果たせていたのだと、自惚れてもいいだろうか。引き寄せられるままに彼の膝元へ誘導され、おずおずと身体を近付けると、彼は大きな掌でわたしの頭を撫でる。
「たくさん頑張ったね。えらいえらい」
この掌がわたしを肯定してくれているのだと思うと、じんわりと内側から込み上げるものが目頭を熱くさせた。わたしはまだまだ彼等に甘えているだけかもしれない。それでも、彼等がわたしを慕って信じてついてきてくれるのなら。
「髭切さん、わたしもっと頑張ります…」
「そう。それじゃあ僕も頑張らないと」
当然のようにわたしを支えてくれる彼に寄り添うと、彼はわたしの背に腕を回して柔らかな髪を首筋へ埋める。いい香り。心地好い体温。わたしは彼の腕をぎゅっと握るのが精一杯だ。
「…もっと僕を遣っていいんだよ」
彼の言葉は、深く、重く、わたしの思考を支配する。今でも贔屓している自覚はあるのに、こうしてふたりきりになってしまう程度にはわたしの好意を漏らしているはずなのに、彼はそれを更に求めたがるのだ。これがわたしを勘違いさせる。
「髭切さん…、」
困って彼を見上げると、彼は笑っていない視線をわたしへ向けながら、わたしの背をつつぅと指先でなぞった。
「いいね?」
考えるよりも先に、はい、と声が出てしまった。彼が得意とする手練手管にまんまと嵌まってしまう。重圧的な約束を交わし、彼は漸く笑みを取り戻した。
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