シーザー

彼は出会ったときから嘘つきだった。
きっと、泣いているわたしを見掛けて放っておけなかったのだろう。優しいというにはあまりにも女性のみに偏りすぎた感情だ。くしゃくしゃに歪んだ泣き顔を綺麗だと、次々に紡がれる甘い囁きにうっかり笑ったわたしを天使のようだと、そして、運命的な出会いに恋に落ちたのだと。彼のどれもこれもが嘘だった。息をするように嘘を吐く。しかし、やはり彼は優しいのだ。わたしの瞳が涙で枯れぬようにと何度も食事に連れ出し、時に明るく、時に甘く、わたしの憂いを晴らすように努力を重ねてくれた。どこで彼を好きになったのか解らない。もしかしたらわたしの方こそ最初に出会ったときに恋に落ちていたのかもしれない。彼はいつからわたしを愛してくれていたか解らない。でも、これだけは確かなのだ、彼は確かにわたしを愛してくれていた。
「でも、帰ってこないじゃない…」
贈られたネックレスに涙を落とす。ねえ、わたし、泣いちゃうわよ、貴方が拭ってくれるんでしょう、どうして帰ってこないのよ。言ってやりたいことはたくさんある。嘘つきな彼が残した唯一の真実は、わたしへの愛の言葉だったのに。必ず帰ってくるさ、と、続けた彼の言葉が嘘だなんて信じがたい。
「わたしだって、愛してるのに…」
彼の過度な愛情表現が照れ臭かった。歯の浮くような甘い言葉が、腰を抱き寄せるキザな仕草が、一晩かけて熱を溶かし合うような優しいセックスが、わたしを素直にさせてくれなかったのだ。彼はわたしの気持ちを理解してくれていたが、それに甘えて言葉にしたことは少なかった。あれが最後だったのだと知っていたら、何度も、何度でも、愛を囁いて貪ったのに。彼の温もりを刻んだのに。
「酷い人…」
帰ってくるなんて、大嘘だったのだから。
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