シーザー

「愚かな夢だろう?」
これから命を懸けた闘いに行くというのに、君への恋慕を抑えられないなんて。一族の誇りの為に、友人の命の為に、自らを律して修行に取り組まなければならない。俺の尊敬する先生だって、俺とジョジョに期待を掛けてくれている。応えないわけにはいかないのに。
「そんなことないわ」
ふわりと柔らかく笑う彼女が愛おしい。君と将来を共にしたい、できることなら、暖かい家庭を築きたい。そんな夢を笑い飛ばしもせず彼女は俺の手を優しく握った。
「とっても素敵な夢。庭は広い方がいいわ。子どもが走り回れるくらいに」
「君に似て可愛い子が生まれるんだろうな」
「あら、貴方に似てハンサムかもしれないわ。男の子でも女の子でもわたしは嬉しいわよ」
「俺だってそうさ。君との子どもだったら、どんな子だろうと愛おしい」
俺よりも小さい掌を握り返すと、つい涙腺が緩みそうになるのを必死に堪える。浮わついていて不純な気持ち。それでいて、不確かな将来。約束はできないのに、彼女はそれでも俺の背中を押してくれる。
「わたし、ちゃんと待ってるわ」
「…あぁ。でも、もし俺が、」
「シーザー」
言葉を遮られる。
「わたしは、貴方とじゃなければ幸せになれないの」
真っ直ぐな視線に心を揺さぶられた。彼女はいつだって素直な感情を俺に投げ掛ける。俺だって、君とじゃなきゃあ幸せになれないさ。そう返したいのに言葉が出てこない。約束を交わすにはあまりにも愚かな願いなのだ。自身が死んでも構わないと本気で思って向き合っていたはずなのに、彼女に触れると途端に揺らいでしまう。俺は、彼女ともう少しだけ生きていたい。強欲だろうか。
「…帰ってくる、きっと」
「ええ、きっとよ」
キスを交わすと、彼女の瞳は潤んでいた。俺がいなければ彼女はこの愛らしい両目を涙で満たすのだろうか。俺は、彼女の涙を拭いに帰ってこれるのだろうか。どちらも解らない。拭ってやりたいとは思うのに。
「愛してるよ」
絞り出した声は、少しだけ震えていた。
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