花京院

あのジョースターさんが声を掛ければホテルが満室で取れないなんて滅多にないけれど、ホテルが全くない街は中にはある。長い旅をしていればたまたま一夜を明かそうとする地域がそうだったりすることが稀にあるのだ。幸い今夜は小さなコテージを借りることに成功したが、野宿は今後も一切体験したくない。

「ふぅ…」
男5人、特に高校生2人は食べ盛りだ。作り甲斐もあるが肩が凝るのも本音である。スポンジに泡を立てて大鍋を洗っていると、腕捲りが甘かったようで徐々に袖が下りてきた。せめて泡が消えるまでもってくれればいいものを。面倒だが濡らすわけにはいかず、スポンジを離した瞬間に背後から腕が回ってくる。
「えっ? あ…」
器用に袖を捲り上げられ、視線をそちらに遣ると、にこりと微笑んだ花京院くん。頼んでもいないのに察してくれるところが彼らしくて胸がときめく。
「あ、ありがとう…」
「いいえ。さっきも言いましたけど、貴女の手料理はとても美味しいです。明日からはホテルのモーニングが食べられなくなりそうだ」
「そんな大層なものじゃないけど…! たくさん食べてもらえて嬉しいよ」
彼は頼みもしないのに隣に立ち、洗った皿を丁寧に拭いてくれる。ありがとう、と呟くと「どういたしまして」と返ってきて、そこから会話はなくなった。洗う水音と、彼が拭き終えた食器を並べる音。それが何とも心地好い空間でわたしの心臓まで音を上げる。どうか、この音が彼に届きませんように。
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