ミスタ

夜風に当たったせいか、それとも少し歩いたせいか、酔いがほんの少し覚めてきた頃には室内にいた。ここまでの会話は覚えていない。先程まで彼と楽しくお喋りをしていたことだけは確かなのだが、こんな安っぽいホテルも覚えがない。目の前の大きなベッドに、記憶のない私は途端に怖じ気付く。恐る恐る視線を遣ると、彼はそれを察したのか、背を屈めて私を黙らせるようにキスを落とした。
「ね、ねえ、私……」
「おっと、今更帰るはナシだぜ? 運命を感じたって言っただろォ〜」
バーで熱心に紡がれた甘い言葉たちが嘘のようだ。彼は私に出会えて嬉しいと、運命的な出会いだと、そう言っていたのだ。甘く、優しく。それなのに目の前の彼は同じ人物には到底思えないような目付きで、私の肩をトンと押した。ベッドに倒れる私に直ぐ様覆い被さり、厭らしい手付きで肌を撫でる。二度、三度と重なるキスを拒もうとしても力強くシーツに押し付けられた手が動かない。運命のキスが、こんなに軽いはずがないのに。
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