閻魔

不安になるほど真っ白な肌に息を飲んだ。雪に溶けてしまいそうな、血の気を感じないような、人間離れしているような。それでも彼の笑顔は暖かく、ふにゃりと人間らしい柔らかい表情でわたしを安堵させてくれる。
「こんにちは。道案内をお願いしてもいいかな、このへん解らなくて」
どこか懐かしい声のトーン。今初めて会ったはずなのに何故かそう思えない、不思議な感覚だ。声を出すことも忘れたまま彼を見つめると、困ったように微笑まれる。暖かい。しかし彼の瞳はどこか偽りのようで、そこにだけ温度がないように感じる。知っているのに初対面、暖かい笑顔なのに冷たい瞳。矛盾に疑問を抱きながら、わたしはやっと彼に頷いた。
「良かった!助かったよ。行きたいところは此処なんだけど…」
了承したわたしに表情を一層明るくして彼は持っていた地図を広げて見せる。ふわりと香る彼の匂いに、やはり懐かしさを覚えた。
「あの…、失礼ですが、何処かでお会いしたことがありますか?」
不躾だとは思いながら質問すると、彼は困ったように眉を下げる。記憶を掘り返しても間違いなく初対面なのだからこんな質問するだけ無駄だというのに、会ったことがあると確信するほどに懐かしいのだ。彼の言葉を緊張しながら待つと、彼は落ち着きなく首の裏を掻く。
「さあ、どうだろう?」
なんと曖昧な返事だろうか。結局わたしは彼を困らせてしまっただけだ。根拠のない自信がどんどん喪失していき、本当に初対面だったのだろうかと思って息を吐くと、ぱた、と地図へ水滴が落ちてくる。
「え、」
その水滴が何なのか考えるよりも先に、目の前の彼が涙を流している理由よりも先に、なんと美しい泣き顔だろうと見とれてしまう。白い肌に伝う、一筋の涙。男性の泣き顔なんてなかなか見る機会もないが、やはりこれも知っているのだ。何処で、どうして、解らないのに懐かしい。わたしはその涙が止まるまでじっと彼の顔を見つめていた。
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