清光

ただの出来心だった。エイプリルフールという行事に乗っかって、ほんの少し驚かせるだけ。そのつもりだったのに、彼の血の気の引いた顔を見て言葉を失う。
「……主、今、何て言ったの」
「え……あ、いや……」
「何」
どんな感情を向けられているのか解らなかった。怒りとも、悲しみとも取れる表情。その表情に恐怖すら感じて思わず首の裏を落ち着きなく撫でる。これは嘘なのだと、ただの冗談なのだと、今訂正しないといけない気がした。何か取り返しのつかないことになると、頭の何処かでそう判断したのだ。
「清光、あのね、」
「   」
え、と声が出そうになる。審神者になってから一度も呼ばれたことのない名前。誰にも知られてはいけない名前。何故彼がそれを知っているのか理解が出来ずその場に固まるわたしを、彼はゆっくりと抱き寄せた。
「ごめんね、こんなことしたくなかったけど」
何が起こっているのか解らない。わたしの知っている本丸から遠退いていくのをぼんやりと眺めていた。どうすることも出来ず、彼を抱き締め返すことすら出来ず。
「主、好きになって、ごめんね」
彼の優しい声が、今は怖くて仕方がなかった。
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