鶴丸
「君、寝てないだろう」
せっせと書類を仕分けるわたしをじっと見つめ、鶴丸が不機嫌そうにそう言った。確かにここ数日は不規則な生活を送っているために睡眠時間の確保が危うい。よく分かるなあ、と感心しながら鶴丸に視線を遣ると、鶴丸がわたしの手を取って自分の掌の上に置いてしまった。書類の仕分けは一旦中止させられてしまう。
「何でそう思うの?」
「目が充血してる。少し休んだ方がいいんじゃないか」
でも、と言葉を続ける前に鶴丸の大きな掌がわたしの顎を持ち上げた。視線を合わされると何となく気恥ずかしい。こんなに綺麗な顔をしている鶴丸に、あまりいい状態とは言えない顔をじっと見つめられると居心地が悪かった。クマだって出来ているかもしれない。
「…何」
「半刻でいいから休憩をしよう。仮眠に過ぎないが、この様子を見ている限り続行は得策とは言えないな」
どういう意味か解らず手元の書類を見ると、しっかり目を通して仕分けているはずだったのに未開封の書類をいくつか捨ててしまうところだった。慌ててそれらを拾い上げて受取日を確認すると少なくとも今月に届いたものではなくて息を飲む。
「や、休んでられないよ…こんなにあるもん…」
「半刻だけでいいって言ってるだろ。正常に判断できるように、ほんの少し休憩を挟むだけさ」
鶴丸がわたしの手を引いてそのまま体を倒し、一緒になって倒れてしまったわたしを抱き寄せた。すっぽり胸の中へ納められて狼狽えていると、わたしの頭の下へ腕を入れ、もう片方の手で髪を撫で始める。休憩している暇はないのに、鶴丸の体温が心地好くて眠たくなる。
「ちょっと…っ、ほんとに、困るから…!」
「なぁに、半刻ばかしでどうにもならないさ」
優しく微笑む鶴丸が、暖かくて大きな掌が、穏やかな甘い声色が、わたしの睡魔を呼び起こす。瞼が重たくなってきて二度三度と瞬きを繰り返すも、鶴丸は離してくれない。頭皮を撫で付けるように何度も掌を往復させるのだ。
「つる…」
「そら、いい声になってきた。眠っていいんだぜ」
「だめ、なの…に…」
とろんと重たい瞼を下ろしてしまう。鶴丸の魔法の掌がわたしを寝かしつけてしまうのだ。ゆっくり、ゆっくり。心地好い掌が一定の動きを繰り返す。あぁ、抗えるわけがない。遠くなっていく意識を手放してはいけないの分かっているのに、どうしようもない。鶴丸の胸へすり寄ると、鶴丸は少しだけ笑ったように息を漏らす。掌はわたしが深い眠りに落ちていくまで、止まることがなかった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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