高橋浩汰
「こうたぁ…」
今日はまた一段と可愛いなあ、と眺めていたら甘えた声を出され、高橋さんはピンと背筋を伸ばします。可愛い可愛い甘い声。この声は何かをおねだりするときの声です。最近欲しがってたもの何だっけ、時計だったかな、なんて即座に頭の中で考える高橋さん。しかし要求はそうではないようです。
「夜、来てほしいんだけど…」
「えっ?」
「だから今夜…わたしの部屋、泊まりに来てもいいって、言ってるの」
泊まりに来てもいい…? ごくりと高橋さんの喉が鳴ります。泊まれるのもなら泊まりたい部屋に招かれるなんて夢のよう。嬉しさのあまり固まる高橋さんを見て、照れ臭そうに顔を反らします。
「じ、じゃあ、そういうことだから!」
慌てて高橋さんの部屋を出ていってしまいますが、高橋さんは追いませんでした。嬉しさでにやけてしまいます。今夜は冷えるから暖めてほしいのかな、それともこの前買った新しいパジャマを見てほしいのかな、なんて暢気に考えていると、自室へ帰った姿がモニターへ写りました。恥ずかしそうに頬を染めているところまでばっちりと。しかし、そのままバスタオルを手に取ると、お風呂場へ向かってしまうのです。
「あれ、今日は早いなあ…」
彼女のお風呂の時間を把握している彼氏はそれほど多くはいないと思いますが、高橋さんは幸せの余韻を抱いたままそれを見送ります。さすがに浴室にまではカメラはつけていないので、こうなると暇です。早く出てこないかな、今日は何をして過ごそうかな、なんて考えて待っていても、一向に出てきません。やけに長いお風呂に高橋さんはハッとします。
「まさか…今夜…?」
いやいや、まさか。高橋さんは煩悩を振り払おうとぶんぶん頭を横に振りますが、お誘いがある日のお風呂は決まって長いのです。高橋さんの期待は膨らむばかり。
「したかったのかなあ……かわいい……」
すっかりだらしのない顔になっている高橋さんは、今夜も可愛い可愛い彼女を心の底から愛すことでしょう。
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テーマ「人外ファンタジー」
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