結斗くん
女に騒がれ慣れてる生活で感覚が麻痺してるのかもしれない。あからさまな好意を向けられると心地好いのかもしれない。俺に見せる笑顔は俺への媚態で、身近にいるからこそそれに狂わされているのかもしれない。本当に好きなのか、本当にあいつじゃなきゃだめなのか。そんなこと、ない気がしてきた。冷静になればそうだ。誰だって他人からの好意は心地好い。自分を肯定されている感覚に酔いしれることができるからだ。俺は俺を肯定してくれる感覚が好きなだけで、へらへら俺に媚びを売るあいつが好きなだけで、べつに、あいつなんて。
「ゆいとくん」
へにゃ、と笑う声がする。振り向けば想像通りの緩んだ顔のあいつ。その瞬間心臓がギュッと締め付けられる。こんなだらしない顔に何がギュッだ。
「さっきのシーンかっこよかったよ、お疲れ様!」
「、ありがとうございます」
落ち着かなくて視線を逸らすと、そうだ、と俺の手を取る。握られた掌は俺より少し小さくて、また大袈裟に心臓が跳ねた。
「結兎くん最近お休みなかったでしょ?明後日久しぶりにお休みとってきたよ!」
「えっ、」
「嬉しいでしょ!私も久々にゆっくりできるから嬉しくって!」
にまにまと笑う顔に俺も口角を上げて見せた。毎日ここまで大忙しで働いてたら嬉しいって感覚が普通なのかもしれない。ゆっくりできるのは確かに嬉しい。ただ、こいつは俺に会えなくて嬉しいんだな、なんてひねくれた考えをして自分で落ち込む。まあ、仕事だもんな。握られていた手を離させる。
「やっと取ってくれたの?待ちくたびれたよ」
「ご、ごめん、最近おいしいお仕事多くて…!」
「分かってますよ。いつもありがとう」
おまけに笑って見せると分かりやすく頬を染め、そんな、大したことじゃ、なんてぼそぼそと喋り出した。こいつが好きなのって、結兎、なんだよなあ。自覚する度に傷付いてどうにもならない感情に苛々する。自分自身に腹を立てても仕方ないのに制御ができない。
「じゃあ帰ろっか。車回してくるね」
そう言って離れていく背中を見つめながら溜め息を吐いた。何が好意を向けられるからだ、何が肯定されているからだ。あいつは結斗を否定して結兎に惚れ込んでるだけだ。男としてじゃなくて優秀な商売道具として好いてくれてるだけだ。はっきりと自覚させられる。なのに、何でこんな好きなんだよ。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -