髭切
おいで、と微笑まれておずおずと近寄ると、腰を抱き抱えられて軽々と持ち上げられてしまう。胡座をかいた上にちょこんと乗ると何だか落ち着かない。重たくないのかな、なんてしつこく聞いても仕方ないからもう聞かないけど、やっぱり何度されても慣れないのだ。
「今日も1日お疲れさま。何をしてたのか知らないけど、一生懸命やっていたね」
「う、うん」
「いっぱい褒めてあげようね」
次回の定期会議用の資料作りをするって今朝言ったけど、知らなかったんだ、と思ったけどこれも今更だ。マイペースな髭切に嘆く膝丸の気持ちも、ちょっと解る。でもそんなことどうでもよくなるくらい、この温もりが心地好い。
「いい子、いい子。毎日偉いねぇ、主は」
「…うん」
「よし、よし、いい子」
暖かい掌に頭皮を撫で付けられると、まるで脳を溶かされているような感覚に陥る。甘くて優しい、鼓膜を揺さぶる声。一定のリズムを刻みながら、何度も掌が頭皮を撫でる。
「主はがんばり屋さんだねぇ」
「ひ、髭切が、褒めてくれるから…」
「うん、うん、いい子」
「もっと、がんばるね…」
「これ以上がんばるのかい? じゃあ僕も、もっと褒めないとねぇ」
これ以上甘やかされたら、だめになってしまいそうだ。麻薬のような一時に体を預け、心地好い体温に目を閉じる。背中に添えるように手を回し、耳許で甘く囁いてくれる髭切に、わたしの全てを任せたくなる。
「いい子だねぇ、」
ゆらり、ゆらり。まるで赤子を寝かし付けるように。暖かな体温に包まれながら、薄くなっていく意識を敢えて追おうとはしなかった。心地好い。声も、体温も、髭切の全てが、心地好い。
「おやすみ、主」
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テーマ「人外ファンタジー」
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