鶴丸
真っ赤に染まる戦装束に血の気が引く。人間と違って時間遡行軍は血を流さないからだ。返り血ではない血が白を赤く汚している、つまり、これは。
「おいおいどうした…」
呆れ顔の鶴丸が困ったように顔を覗き込んでも、一度零れた涙は止まらないもので、手入れ室までついてきたものの傷の深さにびっくりして出た涙は次から次へと着物を濡らす。鶴丸の手入れをする薬研も少し困ったように笑っていた。
「大将、そんな心配すんなって。俺達はいつだって綺麗に治るだろ?」
「そうそう、急に完治しなくなったら、それこそ驚きだぜ」
「おい鶴丸、余計なことを…」
ぼろっ。完治しない鶴丸を想像してまた涙が零れると、わ、わるい…、と薬研に小さく謝罪する鶴丸の声が聞こえた。刀剣男士は何度でも癒せる。解っているけど慣れない。特に、白が似合うこんな綺麗な刀剣男士が、あんなにも真っ赤に染まって帰ってくるなんて。
「なぁ主、あと少しで治るから…」
鶴丸の声が困っている。困らせていても涙は止まらない。こんなにも綺麗で、凛としていて、でもどこか儚げな彼が、もし万が一いなくなってしまったら。
「鶴、」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を漸く上げると、同時に、鶴丸の手がわたしの頭上に置かれる。大きくて、暖かい温もり。それを二度、三度と頭上で跳ねさせて、鶴丸はまた困ったように笑う。
「そんな顔しないでくれ。主の泣き顔は見たくないんだ」
綺麗な瞳にじっと見詰められると、心臓が苦しくなる。呼吸を支配されたように、息遣いが乱れる。嗚呼、やっぱり綺麗な人。また零れそうになった涙をぐっと堪えた。
「…おい、俺もいるからな」
「何だよ薬研、妬いてるのか?」
茶化すように笑う鶴丸に、薬研は仕上げとばかりにバチンと背中を引っ叩いた。息を飲む鶴丸に、わたしも笑う。綺麗に治った体に胸を撫で下ろしても、先程の胸の高鳴りはまだ止まない。綺麗な白に、飲み込まれそうだ。
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