黒の姫





−−−−−、



アローンの絵を見ていたコレットは不意に空を見上げる。


「どうしたの…?」


コレットの異変に気がついてアローンが筆を止めて顧みた。

「…なにか…嫌な予感が…」


確信はないが不思議と、不安が横切る。


「あぁ」と言いながらアローンが同じく天井を仰ぎ見た。


「……あの老獪の片割れがハーデス城に乗り込んできたようだね」


「……片割れ…?」


若かりし頃の双子の姿がスウッと頭に蘇る。


そうだ…彼らは前聖戦の生き残りの双子。


仲間の無念を晴らす為、二百数十年間、生きてきたのだろう。


「…人間とは恐ろしいほど執念深い生き物だ」


ポツリとアローンが口を開いた。言葉とは裏腹に彼の表情は悲哀めいている。


恐らくハーデスとしての記憶を通じて彼は言っているのだろう。



「だけど…それが人間だから」


「……君は昔からそんな人間が好きだったね。」


アローンはコレットに近づくとコレットの髪に指を入れ、愛おしむように優しく撫でる。


「……後悔してる?僕についてきたこと」



「………してないって言ったら嘘になるけれど…きっとテンマ達の許に行ったとしても後悔してた。……それにペルセフォネの器として生まれてきた運命からは逃げられないから」


…それはアローンも同じ、でしょう?


コレットがそう言うとアローンは小さい声で「…そうだね」と悲しげに呟いた。




アローンも内心ではコレットと同じ願いを抱いているのだろう。



テンマとサーシャが自分達を止めてこの聖戦を終わらせてくれることを。













[ 91/109 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]