ハーデスとして




「えっと、確かコッチを右に回ったような…」


「チェシャ、それは先ほど行きましたよ?」


「えっ!!?ホントですか!?じゃあコッチだったかな…?」


チェシャはそう言って歩きながら右往左往している。


恐らく迷子になったのか、道が分からなくなってしまったのか、そのどちらかだろう。


「うぅ、ペルセフォネ様…すみません…」


「いいえ。ここは広いからチェシャが迷ってしまうのも仕方ありません。だから気にしないで?」


「で、でも俺っ!絶対にペルセフォネ様をハーデス様の許に案内しますから!」


慌てたようにチェシャは言った。


彼なりに頑張ってアトリエの場所を探してくれているのだ、彼に任せよう。


そう思い探し回っているチェシャの後ろ姿を眺めていると、ふと景色が気になり、窓を見上げた。


相変わらず空は暗く、廊下を照らす灯りがなければこの辺りはまったく何も見えないだろう。


(私もアローンと同じ、コレットとしての可能性をテンマ達に預けよう)


そしてこれはペルセフォネとしての可能性。


矛盾しているが、そうしなければ決断が鈍ってしまう。


ペルセフォネの器に選ばれたのだからこの現実を受け入れて生きなければならない。





「−−このような所で何をしているのだ?、ペルセフォネよ」


「…!!」


背後から髪を一房すくい上げられ、コレットは反射的に振り返った。


「ハー…デス」



コレットは驚きに声を洩らすとアローンが目を細めて笑う。


雰囲気が以前と変わっている。


幼い顔立ちは消え失せ、今、目の前にいる彼は大人びているような面立ちをしていた。


淀みのない闇。


今の彼はあのアローンとは違う恐ろしさがある。



「ハ、ハーデス様!なぜこちらに…!?双子神様のご用意したアトリエにいらっしゃったのでは…!?」


慌てたようにチェシャが足をもつれながら駆け寄った。


「もうあそこに用はない。…それよりもチェシャよ。余の妻を振り回してどこに行こうとしていたのだ?」


声が低くなり、水色の瞳が妖しく光る。


「−−!」


その妖しさにチェシャは思わず身の毛がよだった。


「チェシャは私をあなたのいる所に案内してくれようとしただけです。」


「そうか…ならばその用は済んだな。行くぞペルセフォネ」


「……、はい。−−…付き合ってくれてありがとうチェシャ」



笑顔でチェシャにそう言い残し、コレットは差し出されたハーデスの手を取る。


ハーデスは空間転移を使うとコレットと共に闇に溶けた。






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