メフィストフェレス






…………わ……たし…




……………わたしは…





『−−−その様子だとようやく思い出したみてェーだなァコレットちゃん』



「……!?」


頭上から声が降りかかり、コレットは顔を上げる。



空間がぐにゃりと歪み、中からマジシャン気取りの格好をした男が現れた。



「あなたは誰ですか…!?」


「誰って…悲しいなァ〜俺の事すっかり忘れちまったなんて」


シルハットの端を軽くつまみ上げて大袈裟に男は嘆息を吐く。


「私は貴方みたいな知り合いなんて知りま…」


言いかけてコレットはハッと目を見張った。


この男、どことなく面立ちがテンマに似ている気がする。


「そ♪何となく察しがついてると思うけど、オレ、テンマの父親だよコレットちゃん。」


帽子の中に手を突っ込み、クルクルと器用に回しながらニカッと歯を出して笑った。


「どう…し…て…」


思わず言葉が詰まる。


なぜテンマの父親がこんな所にいるのだろう。


「俺はテンマの父親である前に冥闘士なんだよねェー。ま、テンマは知らねェけどな」


「冥闘士…!?」


コレットは愕然とした。


まさかテンマの父親が冥闘士だとは思いもしなかった。



「…っ、ではこれもすべて貴方の仕業なのですね!?」


アルバフィカをギュッと抱きしめてコレットは叫ぶ。



「んはっ、んははは♪おっかねェおっかねェ。コレットちゃんは怒らせると怖いなァ」


口調とは裏腹にテンマの父親は歯を剥き出しにしてゲラゲラと笑う。


「だけどハズレだゼ。これは実際に遭った過去の出来事だからな。オレはコレットちゃんをこの時空に連れてきただけでその魚座にはなァーんも手を出してない。殺ったのは三巨頭の一人だ。」


「…!!」


「聖戦というのは負けた方はこーんな残酷な結末を迎えるってことをコレットちゃんにも理解して欲しかったワケよ。…冥府の女王としてね」


「…それでも、」


悲痛な表情を浮かばせてコレットは口を引き結ぶと、再び口を開いた。



「それでも私は進まなければなりません。たとえアテナと…ううん、サーシャと戦う事になろうとも」


決意と覚悟を視線に込めてコレットはテンマの父親にぶつけた。


「……いい心掛けだぜェコレットちゃん」


片頬をつり上がらせ、テンマの父親は酷笑する。


テンマの父親は帽子を被ると手を右に掲げた。


その手から蒼い粒子が寄り集まりひとつの形を成した。


「コレ、コレットちゃんにプレゼント♪」


「これは…」


差し出された杖は漆黒に塗られた杖だった。


「ペルセフォネちゃんとして降臨するには必要なモノだ。これがあればあのパンドラちゃんを黙らせる事が出来ちまうぜ」


「………」


恐る恐る杖を受け取るとテンマの父親は満足げに笑んだ。


杖は思っていた以上に冷たく、ひんやりとしている。


「さァーて。コレットちゃんの覚悟もわかったし。そろそろ元の時代に帰してあげるかァ」



「…少し待って下さい」


「?」


テンマの父親は神妙な顔をしたが、コレットの行動を理解したのか帽子を深く被り直した。


(……アルバフィカ、)


額に唇を寄せてコレットは祈り、願う。



(私にできるのはこれだけ…だから)



生きて…。生きて下さい。



杖から光が発せられる。


淡い光はアルバフィカの身体を優しく包み込んだ。



呼吸も鼓動も止まっていた彼の体が微かに動き、再び呼吸をし始める。



(マント…ありがとうございました。私、忘れません)




今頃は村の人達も避難場所に移動しているはずだから恐らく安全だろう。


それに十二宮を攻める為にきた冥闘士達は虱潰しに村人を殺すほど¨暇ではない¨筈だ。



コレットはアルバフィカを優しく横たおすと立ち上がる。



「用事も終わったみてーだし。とっとと帰りますかねェ」


言いながらテンマの父親はポケットから懐中時計を取り出した。


(…ったく、やっぱアンタはいつ見ても冥界に似合わねェー慈悲深い神様だぜェ)



テンマの父親はつまらなそうな表情を浮かべると時計を正方向にグルグルグルグル回した。








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