赤薔薇





「…とにかく、不安がっていても何も始まりません」


「お姉、ちゃん…」


ベアトリーチェは声を洩らす。

凛然としているコレットは涼やかな声音で続けた。


「とりあえず今は安全な場所に避難するのが先決だと思いませんか?」


立て板に水の言葉に気圧されたらしく町の人達は「あ、あぁそうだな」「そうね」と口々に納得とした。


「この辺りから町に出れる場所はないですか?」


「…確か、この村の西側に昔使っていた坑道があったな。あそこなら隣の村に行ける抜け道がある」


「ならそこに行きましょう!…いいですね?皆さん」


『「ああ。」』


みんなが一斉に頷いた。


その時−−


ドォン!と激しい地響きと共にロドリオ村全域に激震が走った。


「な、なんだ…!!」


「おっ、おい!あれ見ろよ!!」

一人の男の声に村の人達が一斉に空を仰ぐ。


見上げると魔宮薔薇の陣が嵐によって空に巻き上げられており、竜巻のように天空までうね上がっていた。


「時間がありません!急いで避難して下さい!!」


コレットが叫ぶと村人達は慌てて走り出した。


「お姉ちゃんも早く!!」


「うんっ!今い…」


ブワッ!


「……!」


駆け出そうとした刹那、後ろから無数の薔薇の花弁がコレットの髪を凪いだ。


(−−−−、)


コレットは何処からか忍び寄る胸騒ぎと不安に、思わず動作が止まる。


「どうしたんだコレットちゃん!、早く…」

「今…妙な胸騒ぎが…」


「胸騒ぎ…?」


(嫌な予感がする……)


アルバフィカに何かあったに違いない、とコレットは確信にも似た気持ちが横切った。


「先に行ってて下さい!…わたしはあとから行きます!」


「コレットちゃん!?」


「お姉ちゃん!!!」


2人の声を押し切り、コレットは魔宮薔薇のある場所に駆け出した。








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