それからコレットはベアトリーチェの父親が経営する花屋で住み込みで働いた。 花屋の仕事は思った以上に重労働で難しく、最初は手間取ってしまったがやっていくにつれて段々と慣れていった。 「…っ…」 近所に花束の配達に出掛けた帰り道、パラパラと肉眼では見えないほどの雨が顔にかかり、コレットは空を見上げた。 「雨が降るのかな…?」 店までには少し距離がある。 走って行けば間に合うかもしれない。 だが、雨はコレットの行動さえも待ってはくれなかった。 ザーッと雨が勢いよく降り、瞬く間に体が濡れる。 急かされるようにコレットは慌てて走り始めた。 走り続けていると反対側から、金色の鎧を纏った男がマントを頭に翳して歩いてくる。 (…あ…) ハッとするほど美しい男にコレットは思わず引き込まれ、足を止めた。 同時にコレットの視線に男も気づいたが、構わずにそのまま通り過ぎようとした。 その瞬間−−、 「濡れるぞ」 コレットの頭に何か布らしきものが降りかかった。 「えっ…」 コレットは一瞬、何が起こったのか分からずに自分の手で布の端を握る。 (これって…) 振り返ると水色の髪を靡かせながら雨に打たれている男が背を向けて歩いていた。 「あ、あの…」 思わず相手の許に駆け出そうとしたコレット。 「近づくな」 しかし男は立ち止まって凛然とした態度でコレットを拒絶した。 コレットは踏み出そうとしていた足を引っ込める。 男はコレットが近づいてこないのを気配で確認すると再び歩き出した。 (………) コレットは少し複雑な顔を浮かべて男の背中を見つめた。 雨に濡れながら歩く男の存在は孤高に見えたが儚くも感じた。 . [mokuji] [しおりを挟む] |