「十二宮って…?」 「え!?お姉ちゃん知らないの!?」 「う、うん…それに、なんで私がここにいるのかも分からなくて…」 今の脳内にある記憶を掘り起こそうとしたがすべて白紙のままで、何も思い出せない。 「お姉ちゃん…もしかして記憶喪失なの?」 「う…うん。」 「じゃあ名前も分からないの?」 名前……? 名前……私の…名前、は… 「………コレット、だった気がする」 うん。しっくりとくるから間違いない筈だ。 「コレットお姉ちゃんねっ!…あ、…うーん…でも村にそんな名前の人いたかしら…?」 少女は頭を捻らせて真剣に思考を巡らせる。 「ベアトリーチェ」 少女が考え込んでいると、背後から痩せ型で中年ぐらいの男が歩いて来た。 「あ!お父さん!」 「まったく、遅いと思ったらこんな所にいたのか!…おや?そちらの方は?」 ベアトリーチェの父親らしき男の目線がコレットに映る。 「あのねお父さん!このお姉ちゃんはコレットさんって言って…実は−−−」 ***** 「記憶喪失…ですか」 「はい…」 ベアトリーチェの家に招かれたコレットは一通り自分の覚えている事を父親に説明した。 気がついたら自分は記憶がなくて魔宮薔薇のある場所にいたことや、ベアトリーチェに助けられたこと。 そして名前しか覚えていないことを。 「…もしかしたら貴女はこの村の人間ではないかもしれませんね」 「どうしてですか?」 「…雰囲気でしょうか…この村の娘達にはない、独特のものが貴女にはあるような気がします。あっ!決して嫌みではないのですよ。気品というか…その服もこの村にはない生地ですし」 そこで改めてコレットは自分の服を見下ろした。 シルク生地のドレスに近いこの服は確かに村で歩いている時、一番浮いていた気がする。 「とりあえず、今は考えても仕方ありませんね。…それでどうです?記憶を思い出すまでウチで住み込みで働きませんか?」 「え!?」 それは願ったり叶ったりだが、好意に甘えてもいいのだろうか。 自分が増える事でこの家の負担が増えたら…と考えるとあまり気が進まない。 「私は早くに妻を亡くしてからはひとりでこの花屋を切り盛りしていたんですが…教皇様の神殿に添える花の仕事を任されてからは急に店が忙しくなり人手が足りなくなりまして…来てくださるとこちらも助かるのですが…」 「お願いお姉ちゃん!」 「え…でも私がお邪魔して本当にいいんですか?」 「もちろんです!なぁベアトリーチェ」 「うん!」 娘に目を配るとベアトリーチェは嬉しそうに頷く。 「でっ、ではお願いします!」 二人の優しさにコレットは瞳を潤ませると席から立ち上がって深々と頭を下げた。 「こちらこそ…よろしくお願いします」 父親も立ち上がると笑顔でそう言った。 . [mokuji] [しおりを挟む] |