『生きとし、生けるもの。』 『目覚めなさい』 『−−−−−』 −−−−。 気がつくと、暗闇の中にコレットはいた。 左も右もわからないほど闇は深い。 「−−!?」 その時、コレットは神としての記憶が流れた。 それは遙か神話の昔、自分が春の女神と呼ばれた頃の記憶だった。 『なぜ…貴方は人間が嫌いなのですか?』 …ある日、ペルセフォネは母親であるデメテルに頼まれて草原で花を摘んでいた。 だが急に視界が暗くなり、気がついたら冥界に来ていた。 そして、ハーデスが無理やり自分を冥界に連れて行ったのだとペルセフォネは知ってしまった。 ハーデスがペルセフォネを攫う事をゼウスはすでに知っていた。 そしてゼウスは、そのまま冥界にいるペルセフォネをハーデスの妻に差し出したのだった。 ペルセフォネは最初、なぜハーデスが自分を攫ったのか分からなかった。 だが次第に¨捕まえやすい相手が自分だったのだ¨¨妻にする相手は誰でもよかったのだ¨と考えてしまった。 ペルセフォネはゼウスの娘だという事以外は特に優れたわけでもない。 父もそれをわかって自分を妻にと差し出したのだと思ってしまった。 だが冥府の妻になるという事は常に冥府の女王としてハーデスの傍で死者達を導き、罰を与え、犯した罪の数だけの苦行を与えなければならない。 その事を知り、ペルセフォネは憎しみや悲しみ。様々な感情が爆発し、彼に向かって泣き叫んだ。 なんで私を選んだのかと。 人を慈しみ、愛していたのに。 それを奪う事をしなければならない。 だが結局…ペルセフォネは掟に逆らう事が出来なかった。 怒り、悲しみ、憎しみ。 感情が流されそうになる。 自我を保てるのがやっとだ。 己の中にある感情ではない。 彼女の積年の想いや、思念が暴走し、無意識に私を溶かそうとしている。だが不思議と恐しくはなかった。 彼女の想いも記憶も全て自分なのだ。受け止めよう。 彼女の想いも記憶も全て、ひとつに。 コレットの身体から闇が轟然と吹き出した。そして体の内側から眩い光が放たれる。 コレットの目がゆっくり開かれる。 「…っ!」 突風が突き抜け、パンドラの髪を勢いよく凪いだ。 (あれは…まさかオリンポス十二神のみ装備できる神衣…!!) ペルセフォネの神衣…!! 煌びやかな神衣はところどころ鎧が施されているが、女性らしいデザインだ。 (あの女が本当に…ペルセフォネ様だったとは…) 呆然とパンドラは立ち尽くし、コレットを見上げた。 微かに浮いていたコレットの足がゆっくりと地面に着く。 その瞳は暗闇を映しており、表情は酷く無気質だ。 「あぁ…やはりお美しい」 神衣を纏ったコレットの姿は美しさを増し、ヒュプノスは思わず感嘆の声を漏らす。 「……お待ちしておりました。」 「我等の愛しき王妃(ペルセフォネ)様」 . [mokuji] [しおりを挟む] |