痛みと憎しみ






自室にいたアローン…いや、ハーデスは自分の描いた絵を眺めながらパンドラを待っていた。


「遅かったなパンドラ」


「……」


入って早々にパンドラはハーデスに跪いた。


「余の影にバイオレートを潜ませ監視し、あまつさえ冥闘士を無断で動かし天馬星座暗殺を企てるとは…」


「そ、それは…」


「お前のその勝手な振る舞い目に余る!しばらくは余の目に入らぬところで謹慎するがいい!!」


カッと見開いたハーデスの声が轟くとともに覇気が放たれる。


覇気は凄まじい蒼白い光となるとパンドラの周囲で激しく迸り、奔った。


「……最後にお聞かせ下さい」


パンドラはヒュプノスに貰った花を握りしめて顔を上げる。


「貴方様はなぜ、未だに天馬星座………、ご自分の過去に執着なさるのですか?」


「余はすでにアローンとしての過去に執着などしておらん」


「ではなぜ、あの娘を今でも手元に置いて……っ!?」


ふと目に入った中央の絵にパンドラの思考は停止した。


それは幼き日のアローンと天馬星座、アテナ、そしてコレットの姿。


「………ハーデス様…中央の絵は…いったい…」


途切れ途切れに言葉を紡ぐパンドラにハーデスは穏やかに笑って言った。


「ロストキャンバスの仕上げに組み込む一枚。本当は入れる予定などなかったが…彼女に捧げようと思ってな。それにこの絵は余にとっても救済の絵になるだろう」


「…っ、…」





やはり


やはりこのお方は…


パンドラの額に六芒星が浮かび上がる。



「理解しました…貴方様は器となった少年の記憶に毒されている…あの娘のせいで…!!おぞましい人の心に…!!」


人差し指を突き出し、パンドラは叫ぶと周りに無数の芥子の花が現れた。


風に凪いだハーデスの体が宙に浮かぶ。


「そこは空間の歪に作られたアトリエ。どうかそこでロストキャンバスの制作に御専念を」



やがて魂も清められましょう。



放たれた光と共にハーデスの身体が消え去り、パンドラは崩れ落ちるように地面に倒れた。


(お許し下さいハーデス様。)

(これも…貴方様があの女に唆されたからいけないのです)



やはり元凶はあの娘であった。


天馬星座の存在だけがハーデス様を脅かしているわけではなかったのだ。



きっとあの女は自分をペルセフォネと偽って、ハーデス様のお心を乱していたのだ。



「っ、」


許せない。


ハーデス様の御心を弄び、あまつさえペルセフォネを名乗りこのハーデス城にいるあの女が。



パンドラは立ち上がると踵を返し、コレットのいる場所に向かった。










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